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「20.4万人っ!?」
「にじゅう、まん、にん……」
私の後からミモザも何かを噛み締めるように呟く。
「えーっと……、待ってね、もう一回DM確認してみる」
もしかしたら何かの間違いかも知れない。
だって私たちの登録者数は今日ようやく300人になったところで、それでもこんなに増えたと大喜びしていた程度の、無名に近いにゃーちゅーばーだ。
『初めまして、貴女達の動画を見てメッセージさせていただきました。貴女達の声が僕の曲のイメージにピッタリなので、もし迷惑でなければ僕の曲を歌ってもらえませんか?』
読み返してみたDMには、私の名前も書かれていなければ、A4U(エースフォーユー)の文字も無い。
ミモザが心配そうに口を開く。
「うーん……、もしかして、こういうDMを色んな人に送って、コラボしたいならーって金銭を要求されちゃうやつだったり……しない?」
うっ。それは……無いとも言い切れない……。
DMを送ってきた『空』という人のトイッター……短い文章を気軽に投稿できるタイプのSNSなんだけど、そのタイムラインを開いてみる。
『空』という人は日常的な発言は少なかったけど、中間テストがとか期末がと言う発言がポツポツあったので、私達と同じく学生ではあるみたいだ。
「学生さんみたいだね」と私が言えば「そんな風に見せかけてるだけかも知れないよ。その方が同じ学生が安心するだろうし……」とミモザが答える。
「うっ、確かに私も今、この人学生かもって思った途端ちょっと安心しちゃったよっっ」
正直に白状すれば、ミモザはクスクス笑った。
この、人一倍慎重なミモザのおかげで、私が今までどれだけ助けられたかわからない。
私はついつい何でも良い方に考えちゃうし、世の中は皆いい人でできてるような気がしちゃうんだよね。
頭ではそうじゃないって分かってるはずなのに、心が全然疑ってくれなくて困ってしまう。
「そういう素直な所がアキちゃんの良いところだよ」
「うわーんっ。ミモザっ。頼りにしてるよーっっ」
ふんわり微笑んでくれるミモザに抱きつけば、ミモザがポンポンと背中を撫でてくれた。
「うんうん、何かあった時には二人で一緒に考えようね」
「絶対そうするっっ」
私は決意も新たに誓う。
空さんのトイッター投稿は、今作っている曲の話や好きな音楽の話楽曲の進捗などが多くて、にゃーちゅーぶへのリンクも度々貼られている。
それを見て、ミモザが「あっ、この人……」と息を呑んだ。
「知ってるの?」と尋ねれば「私の推し絵師さんが時々この人の曲にイラストをつけるんだよね」と答えた。
ミモザが『念の為に』とノートパソコンから空さんの楽曲を曲名で検索したり投稿URLで検索したりしていたが、どうやらこのDMを送ってきたトイッターアカウントは作曲者本人のものらしかった。
空さんのトイッターIDで他の人とのやり取りを検索しても、詐欺やコラボの件で叩かれている様子はない。
「トイッターもフォロワーさん多いねぇ」
「うん。でもフォロー数は23人しかないね」
「うっ。私なんてフォロワーさんよりフォローしてる人の方が圧倒的に多いよっ」
「それが普通なんじゃないかなぁ……?」
私はPCの画面から目を離すと、隣で苦笑を浮かべていたミモザを見つめる。
視線に気づいたミモザが少しだけ困ったような顔で私を見つめ返した。
「私、空さんの曲、ミモザと一緒に歌ってみたい」
「アキちゃんなら、そう言うと思った……」
そう答えてミモザが俯く。
「……でも私……こんな本格的な音楽を作ってる人に満足してもらえるような歌、歌える自信ないよ……」
「あはは。私も、ミモザならそう言うと思った!」
私は、しょんぼりと落とされたミモザの肩へポンポンと元気を届ける。
「大丈夫大丈夫! いつもの動画と同じ感じでいいんだよ。だってこの人は私達の動画を見て、気に入ったって言ってくれたんだから」
「ううー……それは……、そうかも知れないけどぅ……」
手持ち無沙汰に両手の指先をツンツン合わせて、もじもじしてるミモザも可愛い。
これは自分に自信がない時のミモザの様子で、空さんに対する不信感はもうほとんどなさそうだなぁ。
「じゃあ空さんには、引き受けますってお返事しておくね」
私が簡単なお返事を書き始めると、スマホを持つ腕にミモザが慌てて縋り付いた。
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