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新堂が生徒会室にたどりつくと、辺りはもう薄暗くなっていた。
入口に入ってすぐのところに置かれた四箱の段ボールは、泉が置いて行ってくれたのだろう。
あいつにも急にこんなの押し付けて悪かったな。明日はジュースの一本でも奢るか。と思いつつ箱の中から手探りで鍵を引っ張り出してポケットに突っ込む。
「陸空は……一人で荷物出しに行ったのか?」
呟きながら暗い部屋に明かりをつけると、床に置かれた段ボールと段ボールの間に、もさもさした黒い頭が見えた。
「うぉ、びっくりした……。居るなら居るって言えよな」
箱との隙間で体育座りをしたまま無反応の陸空の顔を覗き込めば、思った通り泣き出しそうな顔をしていた。
「なあ、お前あの子らになんにも言わねーままでいーのかよ? どうせ今度顔合わすんだろ?」
返事は無いままだが、新堂は床の荷物を部屋の奥へと運びながら話しかける。
右手は、力を入れる度ズキンと痛んだ。
「当日どうする気だよ」
「……覆面かぶって行く」
「おいおい……」
やっと返ってきた返事がそれかよ。と内心で突っ込みつつ、新堂は二箱目を棚に押し込む。
「……じゃあ、大地は来るのか? 生放送。来るって言ってたけど?」
言われて新堂はギクリとする。最後まで自分と目を合わせようとしなかった愛花の姿が胸に過ぎる。
「お……俺はやっぱ、ほら、絵描いただけの人だし? テレビの前で十分っつーかさ……」
「勇気がないのはお前も一緒じゃないか」
「いっ、いや俺は見るからに嫌われてただろ!? どうみてもドン引きされてたじゃねーか!! それに比べたら、お前はなんも嫌われる要素ねーだろ!?」
新堂は三箱目を苛立ちと共にドンと机の上に置く。
「僕は……」
陸空は上げかけていた顔を、また膝へと押しつけた。
「……僕に嘘をついたときのアキさん……。あんな風に俯いて、あんなに小さなアキさんの声、僕はいままで一度も聞いたことなかった……」
陸空のよくわからない呟きに、新堂は仕方なく先を促す。
「……それで?」
「アキさんは、いつもまっすぐで堂々と胸を張ってるからまっすぐな声が出てたんだ……。それなのに、僕が彼女にあんな声で……嘘を、つかせてしまった……」
「はあ? お前、そんなこと気にしてんのか? 嘘をついたのは俺達にネットの話ができなかったからってだけだろ?」
「でも僕がもっと早く正体を明かしてたら本当の話ができたはずだ。……僕が、あんなことを聞かなければ、彼女が嘘をつく必要もなかったのに……」
陸空はすっかり自己嫌悪モードに入っていて、これは立ち直るまでしばらくかかりそうだな。と新堂は今までの経験から推測する。
「つかさ、俺達放送室に行って何の用事もなく帰ってきただけだろ? 向こうにしてみりゃ何しに来たって感じじゃね? 明希ちゃんはどうかわかんねーけど、愛花ちゃんなら俺らの事にも気付いてんじゃねーのかな?」
「……どうかな。校内の見回りは時々するから、僕はそこまで不自然じゃないと思うけど……」
答えながら、陸空もようやくのろのろと立ち上がり生徒会の仕事に取り掛かる。
新堂は少し重い四箱目を持ち上げて、右手の鈍い痛みに眉を顰めると、ため息をついた。
「あー。明日の挨拶当番気まずいなー……。俺休んでもいいか?」
陸空は「僕も休みたい……」とだけ答えた。
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