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「空!」
「アキちゃんっ!」
「ミモザ!」
「こっち!」
アキはミモザの案内に従って、細い通路を抜けてスタジオへ入る。
空は新堂の案内で、別のスタジオへと向かったようだ。
顔合わせも説明も、ミモザと新堂が二人でなんとか済ませてくれていたらしい。
マイクを持ってようやくアキが息を整えると、ミモザが苦笑した。
「アキちゃん、大丈夫?」
「うんっ」
「二回目に入るとこ、タイミング変わってるからね?」
「たっ……多分、大丈夫……」
「じゃあ入るとこは私が合図するから、見てて」
「うんっ、頼りにしてる!」
「最後のハモリもちょっと変わってるけど」
「そっちは大丈夫、すっごく好きなとこだから!」
にっこり笑ったアキの顔を見て、ミモザもホッとする。
あたりを見回せば、思ったよりもたくさんのスタッフさんと、カメラ。
ライトも頭上から煌々と眩しいほどに照らされている。
「私達は顔出ししないけど、大地さんの描いてくれた私達のイラストがそこに映るから、一応それを見ながら歌う感じでね?」
「はーいっ」
ミモザの説明を受けながら、アキが時計を見て首を傾げる。
「あれ? もっとギリッギリかと思ってたけど、予定ズレてる?」
「トリの予定だった麗音さんが順番変わってくれたの」
「えっ、じゃあ私達が最後なの?」
「そうなのよぅぅぅぅっ」
ミモザが泣きそうな顔で苦笑する。
ミモザにはプレッシャーが増えてしまったようだけど、麗音さんのおかげで息切れしたまま歌わなくて済んで助かった。
「本番二十秒前です」とスタッフさんの声がかかる。
途端に、スタジオがしんと静まり返り、じわりと緊張感に包まれる。
「ミモザ、緊張してる?」
「アキちゃんがハラハラさせるから、それどころじゃなかったよ、もうぅ」
「あはは、よかった。いつも通りに、楽しく歌おう!」
十秒前からカウントが始まる。
私たちは互いの顔を見たまま、大きく息を吸って、吐いた。
私の隣にはミモザがいる。
私が笑えば、ミモザが微笑む。
胸にはまださっきの空さんのイケボがぐるぐる巡ってる。
今ならきっと、最高にいい歌が歌えそうな気がした。
イントロが始まる。
曲に合わせて私とミモザの代理イラストが歩き出す。
えっ、こんなに滑らかにアニメーションしちゃうの?
……これ全部大地さんが描き下ろしたんだろうか。凄すぎる……。
ミモザと息を合わせて、出だしは完璧だ。
ミモザの声、今日はこんなに綺麗に響いてる。
今頃テレビの前で、弟妹もお母さんも見てくれてるかな。
ミモザの両親はありとあらゆる手段で録画予約しまくったって言ってたよね。
麗音さんの両親も見てくれてるのかな。
いつもの音楽は、途中から二曲目予定の曲のメロディに変わる。
これが空の新しいアレンジだった。
ミモザと二人で作った歌詞が、まっすぐな音に彩られてキラキラ光ってる。
ああ、すごい、楽しい。気持ちいい!
ミモザも気持ちよさそうに歌ってる。
うっとり目を細めた表情は、抱きしめたくなるくらい可愛い。
大地さんのイラストは驚くことにシーン毎に次々と衣装を変える。
可愛い、綺麗。ミモザが大好きになるのもわかるくらい。
隅々までが丁寧に描かれたイラストに愛を感じる。
元の曲のメロディに戻る、この不思議にふわふわした感じ。
この流れ、この音が私は最高にたまらなく好きだ。
ミモザの声と重なる最後のハモリは、私の声が自分のものじゃなくなるような、空さんの音楽の一部になるようなそんな不思議な感覚になる。
あ、わかった。この音、私に大好きって伝えてるんだ。
私の声が好きだって。
私も、空さんの音が大好きだよ!
気持ちをたっぷり込めて歌い上げれば、収録終了の合図とともにわっと歓声を頂いてしまった。
観客はいなかったけど、スタッフさん達がこんな風に喜んでくれたなら、テレビの前の人達にも届いたかな?
「ミモザ、よかったよっ!」
「アキちゃんも、最高だったよぅぅぅっ」
私とミモザは最高の笑顔で笑い合った。
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