エピローグ

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「はー。あったかーい」 「あ、見てアキちゃん、これ初めて見るね」 「ホントだ新商品だねー」 「チョコの種類も増えてきたね」 「冬だもんね!」 「アキちゃん冬好きなの? 私はあったかい季節の方が好きだなぁ。寒いのはちょっと苦手……」 「私は、春も夏も秋も冬もぜーんぶ好きだよっ?」 アキが楽しそうに笑って答えれば、不意に耳元で囁くような声がした。 「アキさんらしいね」 不意打ちの低音イケボにアキは真っ赤になる耳を押さえる。 「うん。アキちゃんらしい」 ミモザが同意する。その後ろに空が、そのさらに向こうに大地が立っていた。 「つーか待ち合わせはスクリーン前だったろ? なんでキミらは勝手に店入っちゃってるわけ?」 一番背の高い大地が、上から困った顔で二人を見下ろした。 「そ、それは、私が……」 ミモザが大地の言葉に小さくなる。 「あはは、スクリーン前は、ミモザにはちょっと刺激が強過ぎて」 アキが明るく笑って答えれば、大地は口を尖らせた。 「じゃあせめて移動するってRINEしてくれよ」 「はーい、ごめんなさい」 素直に謝るアキに、ミモザが慌てる。 「アキちゃんが悪いんじゃないよぅ、私のせいなのに……」 「ああミモザちゃん、心配しなくても別に俺は怒ってねーし、アキちゃんも別に凹んではねーだろ」 「凹んではないですけど、ちゃんと反省はしましたよ?」 けろりと答えるアキに、大地は「おお、えらいえらい」と笑う。 空が甘く優しい声で「そんな探したわけでもないから、気にしないで」と言えば、アキは途端に真っ赤になった。 「ぶはっ。おもしれー。アキちゃんいつまでも空の声に耐性つかねーな」 「大地、人をからかうのは良くない」 「へーい」 「レビュー用のお菓子選び?」 空に問われて、アキは手に取ったままだったお菓子に気付き、真っ赤なままでコクコク頷く。 「は、はい」 「もし良かったら、僕が専用BGMでも作ろうか? 今フリー音楽サイトのを使ってるよね」 「えっ」 アキが瞳を輝かせれば、大地もにっと笑って言う。 「じゃあ俺、タイトルとかちびキャラとか描いてやろっか?」 「大地さんまで……。うう、お菓子動画まで目立ちたくないですよぅ」 ミモザが自分の長い髪を顔の両側から持ってくるようにして、顔を隠す。 「あはは。ミモザがその気になったら、お願いさせてください」 ミモザの様子に、アキは苦笑しながら答えた。 大地は、恥ずかしそうなミモザをチラリと見てから尋ねる。 「アキちゃんは、ソロ活動には興味ないの?」 「大地、人の事情に口を出すな」 すかさず嗜める空に、アキはパタパタ手を振って大丈夫だと伝えながら答えた。 「うーん。私ってミモザがいないと全然ダメなんですよねー」 「えっ、そうかな?」 不思議そうに首を傾げる空の隣で、大地は『確かに』という顔をしている。 「そうなんですよー。ミモザが隣にいてくれるから、トークも歌も安心して楽しくできるんです」 「アキちゃん……」 ミモザがうるりと瞳を滲ませて、アキを見つめる。 「でしょ? いつもありがと、ミモザ」 「わ、私こそだよぅっ」 ぎゅっとハグする二人に、大地が面白くなさそうな顔で唇を尖らせた。 「ちぇ。アキちゃんがソロ活動してくれれば、俺がミモザちゃんを独り占めできると思ったのになぁ」 大地の言葉に、ミモザが小さく息を呑んで恥ずかしそうに口元を覆う。 「大地さんには悪いんですが、私がミモザ離れできるようになるまで、もうちょっと待っててくださいね」と、アキも嬉しそうなミモザの横顔を見ながら苦笑する。 「そしたら、俺とミモザちゃんで組んで朗読動画とかやるのもいいよなぁ」 大地が「いつまでも待ってるから」と言い添えると、ミモザの頬がさらに赤くなる。 「……でも、そうなったら、僕はちょっと……寂しいな」 ぽつり。と零されたのは、空の寂しげな声だった。 「「「!?」」」 三人の視線が空に集まる。 「空さんには私がついてますよっ!!」 「わ、私もついてます!」 「俺が空のこと放ったらかしにするわけないだろ!?」 三人の勢いに、黒ぶち眼鏡の奥で黒目がちな瞳が瞬く。 空はふわりと柔らかく微笑んだ。 「ふふっ。ありがとう。……とっても嬉しいよ」 「ゔっ! 至近距離の照れイケボ!!」 「あっ、アキちゃんしっかりして!」 「致死量のイケボだったか……」 顔面を覆ってアキがその場に崩れる。 コンビニの窓の外、大スクリーンには大地の描いたイラストが映し出され、アキとミモザの歌声が空の音楽に乗って流れていた。
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