1話 秋空と坂道

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「じゃあいくよっ。録画スタートっ」 声をかけて、スマホの録画ボタンを押す。 スマホはローテーブルの上と私たちの手元だけが映る位置にセッティング済みだ。 ミモザはノートパソコンを持ってるけど、色々試した結果、撮影から編集、投稿まで全部スマホで済ませてしまうのが一番早かったので、今では機材は私のスマホひとつだけだ。 アキ「皆さんこんにちはー」 ミモザ「こんにちは、A4Uです」 アキ「いつも見てくれてありがとうーーっっ」 ミモザ「ありがとうございます」 アキ「今日は登録者さん300人記念と言うことで、こちらの新作お菓子のレビューをしていきたいと思いますーっ」 ミモザ「今日は二つ開けます」 アキ「はいっっ、二つも、同時にあけちゃいますからねっっ!!」 ミモザ「アキちゃん、そんなに力入れるほどのことじゃないよ」 アキ「私たちにとっては大きなことだからねっ!?」 ミモザ「いつも応援してくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです」 アキ「このパッケージ、ほんっとみずみずしいっって感じだよねー」 ミモザ「うんうん、果汁弾けてる感じするね」 アキ「メーカーはヤスダさんだねー。ここのグミはハズレが少ないので超期待でーすっ」 ミモザ「オレンジとグレープの二種類が、今日からパミマ限定発売だそうです」 アキ「じゃあ早速、開けてみまーすっ」 『くるるきゅー』 アキ「……」 ミモザ「……っっ、ぷふふっ。やだもう。我慢できなぃぃ。アキちゃんお腹鳴りすぎぃぃ」 アキ「ちょっと! そこは気付かなかったフリしてよミモザっっ」 ミモザ「無理ぃぃぃ、二度目だもん」 アキ「それは言わないでーーっっ」 ミモザ「き、気を取り直して、……開けてみますっ……っふふっ」 アキ「まだ笑ってる!?」 ミモザ「笑ってない笑ってない。笑ってないよぅ? ……っ、っっ」 アキ「プルプルしてるっっ。ミモザ、プルプルしてるからっ」 ミモザ「……っな、中のグミはこんな感じです。お皿に出してみますね。……ふふっ」 アキ「あ、グレープの方はこんな感じでーすっ。すっごい美味しそ……」 『くるるるるるる』 ミモザ「っ、ぅ、ふはっっっちょっっ、アキちゃん勘弁してよぅぅぅっっ、これじゃ300人記念回じゃなくてアキちゃんのお腹の虫演奏会になっちゃうからっ」 ミモザが目尻に滲む涙を擦る。 アキ「ミモザっ笑いすぎ……っ……ぶふっ。あはははははっ、もーダメ私まで笑っちゃうよーっっ」 ミモザ「んっ、ほらほら、アキちゃん食べて食べて。食べたらちょっとは落ち着くでしょぅ?」 アキ「いただきまーすっ、あむっ」 ミモザ「実食しますねー。ぱくっ」 アキ「! シャリシャリするーっ」 ミモザ「うん。ちょっと不思議な食感。グミだけど、外側が薄くコーティングされてるから手に取った時ベタベタしなくていいね」 アキ「あっ、中からジュワッと出てきた!! めっちゃグレープ!! おいしーーっっ!!!」 ミモザ「中はしっかり弾力のある大きめグミなので、ジェリービーンズとはまた違う食感です」 アキ「食べちゃった。もうひとつ先に食べていい?」 ミモザ「いくつでも食べていいよ。オレンジ味もどうぞ」 ミモザがクスクス笑いながら差し出してくれるオレンジのグミを、ミモザの指から直接いただく。 ミモザの指は白くて細くて爪の先まで綺麗に整えられてて、静止画でも映えるんだよね。なんて思いながら。 アキ「んーっ。オレンジ爽やかーーっっ! 想像以上っ!!」 ミモザ「ふふふっ、よかったねぇ。あ。果汁ソース出てきた。濃厚だね、これは癖になっちゃいそう」 アキ「オレンジソース酸っぱすぎなくて、おいしーっ」 ミモザがパッケージを映しながら記載内容を読み上げる。 ミモザ「口の中でプチっと弾けてジューシー。三層構造で外はシャリッと中はぷにっと。真ん中から溢れ出す果汁濃縮ソース。と書かれてますねー」 アキ「うんうんっ、そのとおりだったねーっ、すっごくおいしーっ! 止まんなくなっちゃうっ!」 ミモザ「ちょっとアキちゃん? 私のグレープ味も残しておいてよぅ?」 アキ「はいっグレープ。ミモザもあーんして?」 ミモザ「ぁ……、ぁー……////」 アキ「あははっ、ミモザが先にしたのに、そんな照れる!?」 ミモザ「やだもう、からかわないでぇ。味わかんなくなっちゃうよぅ」 そんなこんなで、私達は今日も二人で楽しく美味しくお菓子を食べながら感想を伝える動画を録画すると、いつものように余計なとこをカットして簡単にBGMをつけて投稿する。 テロップとか効果は必要最低限くらいで、あんまり凝ったことはしていない。 「ふー、終わったー」と手を離したばかりのスマホから、ポコッと軽い通知音が鳴る。 「早速誰かコメントくれたのかな?」 画面を見れば、それはDMが届いた通知だった。 「あ。空さんからお返事きた」 「えっ、もう!?」 私にお茶を出してくれてたミモザも、慌てて私の画面を覗き込む。 「声だけを録音して送ってください、だって」 「もういきなり? いつまでに? お金の事とかは何もないの?」 「うん、期限もとくに書かれてないなぁ」 私はDMを最後まで読んで、画面をミモザの方へ向ける。 「うーん……。この人、どうもちょっと言葉が足りない感じの方ね。悪気は無さそうだけれど……」 ミモザの冷静なツッコミに苦笑する。 私も、ミモザほど気を付けて色々は話せないので、ミモザにはいつも助けてもらってるんだよね。 お菓子のレビューでも、ミモザが最後にしっかりメーカーと価格と購入できる場所とかを紹介してくれるから、私は安心して感想を伝えていられる。 「私の声とアキちゃんの声は別々に録るのね。パートが分けてあるみたい」 今度はにゃーちゅーぶのアドレスじゃなくて、音楽ファイルがファイルストレージサービスのリンクとして貼られていた。 「……開いても大丈夫だよね?」 私の質問に、ミモザが「多分ね」と苦笑した。
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