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20年前
「勇気・・・舞だって!」
その名前は知っている。というよりも兄弟しか知らないはずだ、ありえない・・・でも、でも、この子は兄弟だけの話をしている。いやいやいや兄さんがうっかり喋ったということだって、しかしこんな昔の話を、しかも名前まで。
「おーい」
「うう〜、これは何、どんな罠とか・・・」
「おーいっ」
「いや夢・・・痛てっ、夢じゃないのか」
「ちょっと」
「僕、お酒飲めないし、でも飲んだっけ・・・」
「おーいって、言ってるだろうがぁぁぁーっ!」
「わぁあっ、ご、ごめんゴメン」
「あんた、本当に宏伸?」
「悪いけど本人、そりゃ20年前はイケてたかもしれないけど今は暴飲暴食でこんなんだよ」
昔はキラキラしてたかも知れないが人生なにがあるかわからないと言わしめるボサボサ髪に太鼓っ腹。
「それで君は僕になんのよう?」
「お兄さんに会わせて」
「兄さんにか〜・・・」
どうしようかと迷っていたら会社の扉から後輩がやってきて会議に出てくれという。
「わかった今いく」
「ちょっと、あたしの話はどうするのよ」
「すまないけど僕は会議に出なきゃいけないから行くから、はい」
「なによこれ、カード?」
「お昼過ぎには終わると思うからそれまでに食事でもとっててよ」
「はぁあ? 現金じゃなくてこれで?」
「あ〜そっか、君はえっと〜・・・それクオカードみたいなもんなんだ」
「ふ〜ん、クオカードか、わかった」
「んじゃ」
宏伸は急いで会社の中へと入っていった。待たされることになった舞は仕方ないと近くのコンビニへと足を運びそこで待つことに・・・。
「――う〜、どうしよう〜」
コンビニそれは困ったときや近くにお店がないときなどとても便利なのだが、コンビニの外窓から覗く舞は困惑していた。
「ひ、人がいないなんて」
ふつう人がいるだろうと思っていた彼女が目にしているのは無人、そしてカードをかざして買い物をしている人間たちの姿。
「やろうかな~、どうしようかな〜」
考えているとお腹の音がなるク〜ッと鳴り出し勇気を出してコンビニの中へ。
商品は自分の世界と変わらない、なので焼き肉弁当とオレンジジュースを取ってレジに並ぶ。
モニターに映る商品を確認、カードかざして音が鳴ったら出て大丈夫。前の二人のやり方を見ながら何回も頭の中で反復、
「モニターに〜、値段ね、商品はこれでOK・・・あとはカードをかざして〜」
胸ドキドキ、
・・・ピーッ。
平常心を装いコンビニを無事に出た。
「ふーっ、メチャクチャ緊張したーっ」
舞は近くの公園のベンチで弁当を食べることにした。
食べながらふと空を見上げれば緑の木ノ葉、世界は違っても木々はまるで同じ、
「あたしの世界でも20年後は同じようになるのかな」
そしたら自分はスマホを持ってお金も持たずに無人コンビニヘ、今はそういった物がない自分の世界だがそうなるのかなと想像しながら焼き肉弁当を口にして時を待つ・・・。
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