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ボツキャラと作者
「見ての通りもう十年いじょう漫画なんて描いてないわ、それに今更あんな大変なことやりたいとも思わない」
睨みつける舞だがオカマになった宏隼の眼は全く微動だにしない。彼女を連れてきた宏伸も入るスキはないくらいヤバい空気。
「生みの親でしょっ、なのに世界を見捨てるっていうの?」
「生みの親、そりゃそうね、でも無理なものは無理」
「そんな、勝手よ!」
「プロになった時から遊びで描いていたわけじゃない、ヒットしなけりゃ意味なんてないっていうそういう世界で5年間ワタシなりに創ってきた、作品ってのはそれだけ大変なもの」
「でも・・・引けないっ、止まった時を進めるために、未来に進むために、あたしは引くわけにはいかないっ!」
「引かないって、暴力でもする気?」
「あなたが漫画を描くまで、この世界に居続けてやる!」
その真剣な眼差しは先程よりもさらに深く、強い。彼女が嘘を付くはずもない、さすが若き頃の自分が描いたキャラというべきか。
「居続けるって〜、身内もいない戸籍も無いあんたがどうやって生きていくのよ?」
「そ、それはっ・・・」
「あんた、なーにも考えないで勢いで言ったでしょ?」
「うっ」
「兄さん、16の女の子にそんな攻めるなよ」
「フンッ、20歳にもなってない女の子が40手前のオカマに逆らおうなんて20年早いわよ」
呆れてカウンターに背を向けるオカマの宏隼。
「まあどうせ、そこらへんでの垂れ死ぬか、体を売って食いつなぐのが落ち」
「かっ、体なんて誰が売るもんですかっ!」
「東京はそういう所だって言ってんの、勝者には栄光と富を、敗者には残る物なんて何もないただ寂しく死ぬだけ」
「兄さん言い過ぎだって」
「もう知ってしまったには野垂れ死ぬ姿なんか見たくもないから、仕方なくウチで働かせてあげるけど」
「え?」
「良い? しっかり働かないとすぐに追い出すからね」
「よかったじゃないか、舞ちゃん」
「ちょっ、あたしはまだうんともすんとも」
「仕事をしていればチャンスはきっとくるよ、ね?」
「・・・わ、わかった」
漫画を描いてもらうはずが話は決裂してしまったあげく、舞は居酒屋ならぬオカマバーで働くことになるが、それでもまだ諦めてはいなかった・・・。
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