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おどろおどろしい声音に思わず白雪は悲鳴のような鳴き声のような声を上げた。かたかた震えて、紅茶をこぼしそうになる。そっと机に置いてから瞼をあげた。じりじりと焦るような気持ちを誤魔化すためクッキーを食べた。さくさくして美味しい。
「なぁ俺のこと嫌い?」
獰猛な獣の威圧感は消え失せて、子犬になった蒼汰は白雪を下からのぞき込んだ。下がり眉で悲しげな瞳。つい最近、彼はこの表情を作るようになった。あんな顔を自然とするような殊勝な人間ではないのだよ、と彩音に教えられた。
するりと手を伸びて、白雪の頬を撫でる。指の腹が目の下を往復する仕草、じわりと広がる、微かな彼の体温に、冷静さが消えて常夏のような暑さを感じる。思考がまとまらず、白くかすんでいった。
「きら、いじゃ」
無意識に出た否定に、こてんと首を傾げる蒼汰はあざとい。
「すき?」
「え、っと」
「嫌いじゃなきゃ、好きしかない」
「――人が混乱しているときにたたみかけるの、ずるい!」
「ちっ」
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