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蒼汰の腕が自然と白雪を抱きしめる。いやな気持ちが沸いてこず、あふれるは春の日差しのような暖かさ。警戒が、解けていくのは誤魔化しようがない。自分の気持ちなど、とうの昔に決まっているのだ。一歩踏み出すのを躊躇っているだけ。
「なぁ髪飾りつけて、俺の言葉に反応してくれるって期待してもいーんだよな?」
その通りだ。蒼汰でなければ物を貰っても、身につけない。大切に思わない。白雪の態度は火を見るより明らかだ。
「……あ、の」
ぎゅ、と彼の服をつかむ。かすれてみっともない、逃げ腰の声だ。蒼汰は白雪の頭を撫でる、まるで幼子を宥めるような、ゆったりとした動作だ。
「あした、へんじ、するから、まって」
一歩踏み出さず足を引っ込めた。作った逃げ道に、蒼汰も白雪も黙る。静寂が数秒続いて、白雪の顎に彼の手が、そっと添えられる。くいっと上を向かされる。
慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる蒼汰と目が合う。
そして。
「待てない」
慈母の顔とは似合わない無慈悲な宣告。待つわけねぇだろ、と副音声が聞こえたのは気のせいではないだろう。白雪は諦念に達して、遠い目になった。
「で、こたえは?」
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