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「わかってるのに、言わすのは、意地悪」
「聞きてぇんだよ。好きな女の言葉だから」
俺はお前が、好きだ。
恥ずかしげもなく、はっきりと好意を捧げる。白雪は、そっと金平糖のような甘い言葉を口の中で転がして噛みしめる。飲み込んで体に浸透させた。
白雪はそのまま甘さに溺れたかったが、臆病な部分が囁く。それはずっと心の底で重くたまっていた疑問。なぜ。
「なんで、私が好きなの?」
「俺にとって正しいから」
悩む素振りなど一切ない。今適当に見繕った答えではないのだろう。しかし納得するかは別である、正しいからとは。正しさなど白雪には無縁のものだ。
思わず怪訝に見つめ返せば蒼汰は小首をかしげる。不思議そうな顔だ、白雪が戸惑う理由がわかっていないらしい。
「もし、もしあなたが好きな私……正しくなくなったら?」
ふと。ポツリとこぼしたのは、最後の逃げ道だ。そのときなど、聞かなくともわかる。世間でいう破局の。
「――ならねぇ、させねぇよ」
俺がいるかぎり、正しく生きさせる。
ほんの一瞬、彼の瞳がかげった。だが蜜のような甘い笑みで覆い隠される。白雪は逡巡のち「そう」とだけ答える。
なら、いい。捨てられないのなら、見捨てられないのなら。正してそばにいてくれるならば、怖くない。蒼汰という居場所が、離れないと約束してくれるのなら、白雪の悩みは全て杞憂である。
白雪は、深呼吸をひとつ。緊張から目に薄い膜が張る。それでも目線を外さないまま、抱え込んで逃げ場所を失った気持ちを吐露した。
「すき。わたしも、すきだよ。貴方が私を捨てないかぎり」
存外、蜂蜜のような声だった。透き通るように響き、甘い音色をたてる。蒼汰が何故か驚いたように、ぎしりと固まって目を見開いた。そのまま、すっと窓へと逃げた。
「……ん」
「い、言うように迫っておいて、その反応はひどい!」
「ちがう」
ぽすんと彼の顔が白雪の首筋に埋められる。すり寄って、淡藤の髪がくすぐる。びくりと体を揺らせば、はぁ、と熱く重いため息をついた。しみじみ感じ入るように、耳元で吐息まじりに囁いた。
「今直視したら食っちまいそう」
「ヒェ……」
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