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生まれて恋人など存在しない白雪でもわかる。食べるというのが、頭からバリバリ咀嚼するのとは異なる意味だ。男女の、濡れる夜を指すのだろ。いや、もしかしたら本気で食べ……いやありえない。
羞恥と僅かな恐怖にとらわれて白雪は、わたわたと慌てる。どうにか話を修正したいが、コミュニケーションが苦手な白雪ではどうにもならない。
蒼汰が、少しだけ顔を上げて、子犬の顔で。
「いい?」
いいわけあるまい。
どれだけ可愛らしさを演出されようと、言っているのは愛らしさとはかけ離れている。獲物を狙う鋭く、ぎらぎらとした眼差しは隠しきれていない。
「はぁ……なんで学校なんだろ。いやまぁ家だったら迷わず理性とか捨てただろうし。大事にしてぇからよかったのか」
「聞こえない聞こえない聞こえない!」
「ん。かわいい、俺も好き。って言った」
「違うじゃん」
「聞こえてんじゃん。あーぁ嘘つかれて悲しい。慰めて」
前から思っていたが、彼は案外強かだ。周りには容赦しない威圧感を与えるが、白雪には小動物を連想させる甘え方をする。特に、この前吹っ切れたあたりから顕著になる。
白雪はこれに弱い。それを知っての行動だろう。
「だめ?」
にっこりと笑って、額を合わせる。睫すら触れそうな距離に、白雪はふるふると震えてから吠えた。
「――たちがわるい!」
「はいはい、ほら」
くちとじて。
吐息が唇にあたり、渋々を装って目を閉じた。ふに、と柔らかい感触に唇を重なった。
そのあと小さく「がぉ」と肉食獣の鳴き真似した彼は、子犬の皮を脱いで、かぶりと噛みつくようなキスをした。
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