まねき亭とその店主

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 真剣な目で正面に座る千里を見つめると、彼は「ふぅ」と息を吐いてからここがどういうところなのかを語りはじめた。  ここ『まねき亭』は、人間の住む“現世(うつしよ)”と人ならざる者たちの住む“幽世 (かくりよ) ”の狭間に存在している店。やって来た客がお茶を飲みがてら店主に悩みを相談する。その悩みを解決できれば、店主である千里は『徳』を積めるらしい。 「徳を積んだらどうなるんですか?」 「化け猫から猫神に昇進できるのよ」  なぜ聞かれた千里ではなくウサギが答えるのだろうと思いながら、「へぇ」と相槌を打ったのだが。 「え! 昇進⁉」  一拍あけてから思いきり驚いたら、「そこですの?」と呆れられたが、親切にも詳細を説明してくれた。  いわゆる“普通のネコ”として生まれ、死ぬまでの間に神様になにかの理由で八つの命をもらえることがある。 その八つの生を生きている間に妖力が高まり、九生すべての猫生(じんせい)を終える際に徳の高さを神に認められば、晴れて猫神になれるそうだ。  ちなみに現世(うつしよ)で完全な人型をとることができるのはひと握り。妖力の高いあやかしのみで、千里はそのひと握りの中に入るという。 「俺にはおまえが必要なんだ」  それまで黙っていた千里が放った言葉に、不覚にも胸がドキッとした。  けれどすぐに気がついた。この世のものとは思えないほど眉目秀麗な男性からそんなセリフを言われたら、誰だってそうなるに違いない。ましてや璃世はそんなことは誰からも言われたことがないのだ。免疫がなくて当たり前だと。   「神様になるのに私が必要ってどういうことですか? まさか乙女の生き血を……」  自分で口にしながら背筋が寒くなった。ブルッと身震いをした璃世に、千里が呆れた視線を寄越す。 「阿呆(あほう)。そんな下品なことするか。しかもそれじゃあ徳を積むどころか神の怒りを買うだろうが」 「あ、そっか……」  ひとまず害をなすことはないのだとわかってほっとする。
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