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「璃世……ごめんなさい……」
見るからにシュンとうなだれたアリス。大粒のルビーかと見まごうような瞳は潤み、桜色の小さな唇が震えている。
見事なストロベリーブロンドの髪に結われた白いレースのリボンが、なんとなくうなだれた耳に見えてしまう。
本人だって悪気があってわざとやったわけじゃないのだ。置いて行ったことを謝ってくれればそれで十分。そう告げようと口を開きかけたとき。
「どうか彼女を許してやってください」
優しげな男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。
(お、王子⁉)
戸口ところに立っていたのは、物語に出てくる王子様とはかくや――というほど高貴なオーラを放つ男性。千里より少し下くらいの年頃で、プラチナブロンドがまばゆいほどにキラキラと光っている。
「彼女が大変失礼をいたしました。夫の僕からも謝罪いたします」
歩み寄ってきた男性はアリスの隣に並ぶと、そう言って璃世に頭を下げた。
「お、夫⁉」
目の前の男性を凝視する。
(ちょっと待って! 今のアリスは西洋美少女だけど、本当はウサギなのよ⁉ ってことはまさか、このひとも……)
信じられないという目を向けると、彼はにっこりと絵に描いたような微笑みをくれる。そして手に持っていた袋を「よかったらどうぞ」と璃世に差し出した。
受け取るのを躊躇していたら、アリスが袋を璃世の手に握らせる。そのまま両手をぎゅっと包んで口を開いた。
「危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい。これはほんのお詫びの気持ち、受け取ってくださいまし」
心底申し訳なさそうに言われ、璃世もうなずく。わざとではないのだし、こうして無事だったのだ。謝ってもらえばそれでいい。
「ありがとうございます、璃世」
そう言って抱きついてきたアリスが、璃世にだけに聞こえる声でささやいた。
「やっぱり夫婦っていいものですわよ。結婚が決まりましたら是非ご報告に来てくださいましね」
「けっ!」
アリスは「ふふふ」と意味ありげな笑みをくれた。
「用は済んだしアタクシたちはお暇いたしますわ」
「そうだね。では僕たちはこれで」
ふたりはそう言うと、つむじ風のようにあっという間にいなくなってしまった。
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