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エピローグ
龍司に送られて家に帰ったわたしは、おジイちゃんとおバアちゃんに、おばけトンネルで起こったことを伝えた。
「あのこたちは、まだあそこに縛られていたのか。気づかなくて、悪いことをしたな」
そう言ったおジイちゃんは「よくやってくれた」とわたしをほめてくれた。
「あそこは事故が多いトンネルだったが、五年前のあの事故が決定打となって、閉鎖が決まったんだ。もっと早く、閉鎖されていればな……」
おジイちゃんが重い口を開いた。
「わたし、事故のことも含めて、もっとお父さんとお母さんのことが知りたい」
わたしは、しっかりとおジイちゃんの目を見つめながら言った。
「そうか。スズ香も、そういう話ができる年齢になったんだな」
「来年は中学生ですしねえ」
その日は久しぶりに、わたしはおジイちゃんたちと同じ部屋で寝て、眠るまでお父さんとお母さんの話をいっぱい聞かせてもらった。
お盆にお父さんたちと会えたら、おジイちゃんやおバアちゃんに、こんな話を聞いたんだよって、教えてあげよう。
ほかにはどんな話をしようかな。お盆が待ち遠しいよ。
そして翌日。
わたしはいつもどおりに、早めに学校についた。
教室に入ると、なんだかクラスのようすが違った。
ランドセルをロッカーにしまいながら、なんでだろうって考える。
そうか、こんなに早い時間なのに、教室に人が多いんだ。それに見慣れない顔があるから、クラスメイト以外の人もいるみたい。
「ねえねえ冬月さん、幽霊が見えるって、本当だったんだね!」
「えっと、うん……」
席に戻ると、一度も話したことがないコから話しかけられた。
「見えるどころじゃないわよ、スズ香ってば、空を飛んでたんだから!」
麗子ちゃんが言うと、
「そうそう、それ見てたよ!」
「びっくりしたよね」
「それホントなの? すごい!」
とクラスメイトが口々に言いだした。
そうか、おばけトンネルのことが、一晩で広がっちゃったんだ。
「どうやって空を飛ぶの? 魔法なの? やりかた教えて!」
「ねえねえ、わたし新聞部なんだけど、インタビューさせてもらえない? どうして幽霊が見えるのかとか」
「それはちょっと……」
わたしは逃げるように立ち上がると、悠一郎くんと目が合った。悠一郎くんはにっこりと笑う。
「よかったね、スズ香ちゃん、人気者で」
なんか悠一郎くん、ずれてる。急にいろんな人に話しかけられて、わたし困ってるんだよ。ちょっとしたパニックだからね!
「あの、ごめんねっ」
わたしは謝りながら教室を飛び出した。
すると廊下にカヲルがいた。
「おはよう、カヲル」
わたしはほっとして近づいた。
「スズ香、ちょうどよかった。このコの祖父がさ、最近、調子が悪いんだって。幽霊の仕業なんじゃないかって心配しているようだから、一度見てやってよ」
「すみません、よかったら……」
カヲルのとなりにいる女の子が、ペコリと頭を下げた。
わたしは、ウッと言葉が詰まる。
いつもならぜんぜんオーケーなんだけど、今は、そっとしておいてほしい気分なの。
「いいよ。でも、話は改めて聞くから、今度ね!」
「あっ、スズ香」
わたしは逃げ出した。
授業が始まるまでは、誰も話しかけてこない静かなところに行きたい。図書室かな。
そう思って階段を降りていたら、龍司とはち合わせした。
「おっ、見つけた。おまえ、登校するのハエーよ。今日から送り迎えしてやるから、ちゃんと待ってろよ」
「えっ、いいよ、一人で学校に行けるよ」
「エンリョすんなって。スズ香が一人にならないようにしないとな」
違う、違うんだよ。そういう意味で言ったんじゃないんだってば!
《一晩で、ずいぶんと人気者になったな、スズ香》
肩にいるコンゴウは、おもしろがっている。
友達がいないのはさみしいけど、こんなにいっぱい話しかけられたら、おちつかないよう!
「そうだスズ香、昨日のことオヤジに言ったらさ、悪い幽霊の噂がある場所があるから、様子見に行ってほしいって頼まれたんだよ。一緒に行こうぜ」
「もう、龍司まで!」
みんなわたしの顔を見ると、幽霊、幽霊、幽霊って!
「おれまでって、なんだよ」
「知らない! 龍司一人で行って」
「おい、スズ香!」
わたしは龍司に背を向けて走り出した。
もう、あんなに怖い思いはこりごりだよ!
おわり
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