夜烏

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「ラザロくん、居眠りなの?」  上司のジェシカがデスクをドンッとこぶしで叩くと、頬杖をしてうたた寝をしていたラザロはガクッと崩れた。涎を手の甲で拭いながら、般若(はんにゃ)形相(ぎょうそう)となった憧れの上司を見上げる。 「あ・あ・あ・・・すみません」  オフィスに同僚や後輩の失笑が広がる。 「昨日の朝は遅刻でしょう?理由はなんだっけ?」 「ええっと・・・地下鉄で寝過ごしてしまって・・・」 「ねえ、夜寝不足なんじゃないの?徹夜でゲームでもしてるの?」 「そういうわけでは・・・」  たしかに、最近になって日中突然睡魔に襲われる。頭がボ〜ッとなってミスをしたことも一度や二度ではない。頭痛やふらつきもあるし、手足にしびれや筋肉痛もある。いつも目がしょぼしょぼする。だが、寝不足というわけではない。毎日7時間以上は睡眠をとっている。ジェシカが言うように徹夜でゲームをしたり、あるいは恋人が寝させてくれないわけではないのだ。 「そう、寝不足じゃあないなら・・・ラザロくんって、最近ちょっとぽっちゃりしてきたよね?」  ああ、これはパワハラだ・・・だが、ジェシカからのパワハラなら甘んじて受けよう。女上司は、レッドブルと一緒に一枚の名刺を置いて、デスクに戻って行った。名刺には「メリーウェザー睡眠クリニック」とある。ここを受診しろ、という上司命令であろう。
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