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幼い頃からずっと学校という場所が好きではなかった。行きたくないとか嫌いではないけれども、学校に対して好きだとか楽しいという感情は記憶の限りまったく覚えがない。
「佐藤さん」
三限目あとの休憩時間、私は談笑している女子生徒に声をかけた。金色に近いほど染めた流行の髪型とコスメにネイルもばっちり決めて素肌がちらつくほど制服を着崩している。話し相手も似たり寄ったりだ。
それでも彼女らは浮いているというわけではなく、むしろそれは私にこそ向けられる言葉だろう。
ロクに手入れもしていない工夫の欠片もないセミロングの黒髪にノーメイク、視力が弱いのでかけている洒落っ気のない黒のスクエア型セルフレーム眼鏡は量販店で買える安物だ。制服も一切手を入れておらずボタンひとつも外さない私は、学校で明らかに浮いた存在だった。
「ん-? なぁに許斐ちゃん。なんか用あった?」
へらへらと笑みを浮かべて振り返った彼女へ向けて無味乾燥に「許斐だけど」と返し「数学のプリント今日の放課後までだけど出さないの?」と続ける。
私はクラス委員として数学の先生から収集と提出を頼まれていた。こういうときほとんどの生徒は自分から私のところに持って来てくれるのだけれど、逆に決して自発的に持って来ない生徒もいた。
彼女と談笑していたふたりの生徒も同様だ。彼女らに向けても私は告げる。
「あなたたちも。出さないならもう提出して来るけど」
三人は面白くなさそうに顔を見合わせてから、にたにたと意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見た。
「あープリント! 忘れてたわー。許斐ちゃん答え写して出しといてくれる?」
「ウチもお願いー」
「ちゃんとアタシらの名前書いといてよね」
けらけらと笑いながら口々に言う彼女らに対して、私はイヤな顔をするでも臆するでもない。
「放課後には持っていくから」
それだけ言ってそのまま自席に腰を下ろす。
「なっ……」
「名前ばっかりユルくて頭ガッチガチだよねツマンナ」
「ダッサいくせに生意気」
「それな」
彼女らの席はすぐ真後ろだけれども、そして聞こえよがしに気色ばんだり小声で悪態を吐いたり色々リアクションをしているのだけれども、そんなもの私の知ったことではない。
彼女らと分かり合える日は来ないし、そんな努力をしてもお互いなんの得にもならないし、どうせ高校三年生。卒業したら彼女らとはお別れなのだからあと一年のためにくだらない時間を使う気にはなれなかった。
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