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♢♢♢
次に目を覚ましたのは、ふかふかの布団の中だった。
「あ、私っ…」
きょろきょろと辺りを見渡す。そこは和室のようだったが、見たことのない立派な掛け軸に生け花、そして壺も置いてある。床の間だと悟る。
夢なのではと錯覚するほどにここは静かだった。
自分の体を確認すると、真新しい浴衣姿だった。いつ着替えたのか記憶がない。
それだけではない。体も相当に汚れていたはずなのに、綺麗になっていた。
疑問符で埋め尽くされる脳内にパニックに陥りそうになったその時、襖が開いた。
そこには着物姿の女性が立っていた。
「あ…は、はじめ…まして」
数秒見つめ合った後、小春は何とか絞り出してそう言った。
肩ほどまでの白髪に綺麗な二重、それから人間離れした高い鼻、宵と同じくらいはあるだろう身長に圧倒された。
今日は美しい人しか…いや、あやかししか見ていない。そう思った瞬間
「あ!あなたも…」
と口にしていた。
「自己紹介がまだでした。私、この屋敷の使用人をしております、結と申します。以後、お見知りおきください」
「は、初めまして。私は…えっと、花園小春と申します。えっと、その…」
実際ここはどこなのか記憶が曖昧なのだ。名を名乗るので精一杯だった。
それを察したのだろう、結は正座する小春の目の前に来て膝を折ると口元に弧を描く。人形のような陶器のような肌にこの人も人間ではないのではと思った。
「そうですよ、私は人間ではございません。狐のあやかしでございます」
「き、狐…」
「ええ、私は何かに化けるのが得意でして。ですのでこれも仮の姿でございます」
「…は、はい」
情報量が多すぎると思った。
だが、疑問全てを結にぶつけるのも違う。
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