二章

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意味が分からずその続きを聞こうとするものの宵はそれ以上話すつもりはないようだ。 正面を向いてから目を閉じた。こんなにも安心して眠ることの出来る日が来るなんて思ってもみなかった。瞼が重くなっていく。そのまま小春は深い眠りについた。 目を覚ましたのは誰かの視線を感じたからだった。 「…ぅ、ん?」 瞼を開けるとそこには天井と葉瑠の顔があった。 「わああ!」 「おはようございます~!いや~寝顔まで美しいです。顔色もすっかりよくなりましたね」 「は、葉瑠さん…出来れば寝顔を見るのはやめていただきたいのですが…」 「何を言ってるんですか、僕はちょうど今来たところですよ。ずっと小春さんの顔を覗いていたのは宵様でございます」 「え…」 「もう…仕事があるっていうのにギリギリまで小春さんの寝顔見て!こっちが恥ずかしくなるくらいですよ」 宵が自分の寝顔を見ていたなど信じがたいのだが葉瑠が嘘を言っているようにも見えない。 「ささ、朝食を食べましょう!食堂へ案内しますので」 葉瑠に案内され食堂にたどり着く。ここは迷路のように広い屋敷だと思った。 (絶対に迷子になってしまうわ。慣れるまでは葉瑠さんについていかなきゃ) 食堂には配膳をしている最中の女性が数人いた。どれも使用人だろうか。 彼女たちの視線が小春へ向く。 「初めまして。小春と申します…。昨日からこのお屋敷で生活をさせていただくこととなりました」 丁寧にあいさつをすると、この中で一番年かさであるように見える女性が口を開いた。 「あなたが宵様の奥様ですね!お会いしたいと思っておりました。私たちはこの屋敷内の使用人の雪乃でございます。ささ、こちらへ」 雪乃と名乗る女性は高身長でスタイルも良く横に並ぶとその差は一目均衡表だった。 真っ黒な髪を簪で纏め上げている。彼女の目も髪色と同じく漆黒で、すっきりした輪郭に目鼻立ちの整った顔は誰が見ても美人だ。そして同時に彼女もあやかしなのではと思った。葉瑠にこの屋敷にいる人たちに人間はいないのか聞いておけばよかったと思った。 テーブルに並べられた和食に小春は頬を緩ませる。昨日も満腹になるまで食事をして今日も朝からこんなに豪華な朝食を頂けるのだ。幸せだ。 食事を終えると、葉瑠は屋敷内を案内してくれた。離れもあるようだが、そこは鬼司家の一族が住まう場所で宵がいなければ行くことが出来ないようだ。 「先ほどの女性は…あやかしなのですか?」 葉瑠の横に並びそう訊く。葉瑠はもちろんですよと言った。
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