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三章
♢♢♢
それから数日は屋敷内から出ることなく小春は過ごしていた。毎日温かい寝床に豪華な料理、そして屋敷のあやかしたちの優しさに触れ毎日が幸せだった。そして着々と結婚の準備もしていた。
鬼司家当主の結婚となればそれはそれは豪華に行われるのだという。
宵はというと毎日のように過保護すぎるのではと思うほど小春に気を遣っていた。
寒くはないか、食事の量は足りているか、何か欲しいものはないか…などまだ知り合って一週間と少ししか経過していないというのにこれでもかというほどに大切にされていた。
そんな宵に惹かれない方がおかしいのだ。
「俺はまた少し出かけてくる。小春は外出は構わないが必ず俺の側近と一緒に出掛けてくれ。なにかあれば大変だ」
「別に何もないとは思うのですが…」
宵を見送るため玄関前で見つめ合う二人。漆黒の瞳が小春を映す。
頬に、いや…全身が熱くなっていくのを感じながらも目が離せない。すると、宵の手が小春の頬をそっと撫でる。そしてそれは首筋に移動した。
ぞくっと背中が粟立つような感覚と同時に全身が脱力するような相反する感覚が小春を翻弄する。
「あ、…宵、様」
「もっと小春のことを知りたいと思う。それなのに仕事ばかりですまない。仕事が落ち着けばどこか遠出をしよう。結婚の準備もあるから忙しくなるかもしれないがそれでもあなたとの時間を大切にしたい」
「そ、それは私も同じでございます」
息が上がってくる。誰かが来たらおかしな光景だと思われないだろうか。
そう思うのに、指一つ動かすことが出来ない。
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