三章

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これは妖力をもらうための行為であって決してそれ以上の意味はない。 なのにその指が耳を撫でると自然に小春の瞳が潤んでいく。 「では、行ってくる」 「あ、い、いってらっしゃいませ」 ようやく手が離れると感じたことのない不思議な感覚から逃れられた安堵と温もりを感じる手が名残惜しくもなった。 「おはようございます。朝からお熱いようで」 「おはようございます!え?…っと、」 はっとして振り返るとそこには若菜色の着物に身を包む男性が立っている。 白髪の彼はどこかで見たことのなるような気がした。しかし一番に目に留まったのは白髪の頭から出ている耳と尻尾だ。 「あぁ、そうか。小春さんには見せておりませんでしたか。ふふ、私ですよ、結です」 「ああ!!」 目の前の美男はふっと艶やかに笑うとその尻尾と耳をすぐに消してみせた。 あっという間だった。これを小春へ見せるためわざと耳と尻尾を出していたのだと知った。 「結さんこんなに素敵な尻尾と耳をお持ちだったのですね」 子供のように無邪気に喜ぶ小春に一度目を丸くして固まったもののすぐに噴き出すようにして結も笑った。 「そんなに面白いですか?」 「ええ、だって可愛らしいのに気高くそして美しい!驚きました」 「はは、そうですか。そういえば今日のご予定は?」 「特にありませんが」 「だったら私と一緒に出掛けませんか?少し歩きますがこのあたりを案内しながらいろいろと説明しますよ」 「ありがとうございます!」 声が自然と弾むのがわかる。隣を小春の歩幅に合わせて歩く。
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