5 出迎え

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 5 出迎え

 ディレンがルギに逮捕された頃、トーヤ、シャンタル、ベルの3人は無事にある場所に到着していた。 「この前はここから出たんだったよな」  そう、「聖なる湖」から「マユリアの海」の向こうの海まで続いているあの洞窟、トーヤが初めてダルから教えてもらったあの出入り口だ。  封鎖の鐘が鳴る中をシャンタルとベルがここまで逃げてきた入り口から今日は入った。 「灯りをつけるね」  シャンタルがこの間と同じように魔法で灯りをつける。 「そんでここまで逃げてきたけど、この先どうするのさ? まさか、ずっとここに隠れてるわけじゃねえよな?」 「何日ぐらいここで過ごせるかな」 「おい、本気かよ!」  もちろんトーヤがベルをからかったのだ。 「まあ付いてこい」  と言ったが、先導は掌の上に灯りを持つシャンタルだ。 「一度通ってるから分かるだろうが」 「行けるかなあ、あの時は自分で歩いてないし」  今度はシャンタルがトーヤをからかう。  確かにあの時はダルの愛馬のアルに乗っていた。 「まあ道は分かるだろうが。って一本道か」 「そうだね」 「先行きも分かんねえってのに呑気なもんだな」  と、ベルが不服そうに言うが、確かにのんびりした会話だけを聞いていると逃亡者たちとはとても思えない。  しばらく歩いていくと、 「ちょっと疲れた。トーヤ交代して」 「ん」  と、シャンタルが掌の上の灯りをポトリとトーヤの手の上に落とした。 「ちょ、ちょいまち! それってそんなことできんのかよ! シャンタルが魔法使ってるからシャンタルしか持ってられねえと思ってたよ!」 「灯りは魔法で作ってるけど持ち直すことはできるよ。何、ベルも持ちたいの?」 「もちたい!」  と、もう一つ灯りを作ってベルの掌の上に乗せてやる。 「すっげえ!」  ベルがキャッキャとはしゃぎながらトーヤより前に出ようとする。 「ちょ、そんな前出るな、滑って転んだらどうする」 「だーいじょうぶだって、さっきんとこ出るまでにもそんなことなかったし」 「いいからはしゃぐな」  いつものようにやいのやいののやり取りを聞きながら、シャンタルがクスクス笑った。 「本当にどこに行っても大丈夫だね、私たち」  ベルが後ろを振り返り、思いっきりニンマリと笑った。  シャンタルが「私たち」と言ったことがとてもうれしかったのだ。 「おうよ、おれたちだったらどこ行ったって無敵だぜ、無敵。なあトーヤ!」  トーヤはしょうがないという顔をして、 「まあそうだな」  そう返し、穏やかに3人で洞窟を下る。  あまり使うことがない次の入り口を通り過ぎ、また次の灯りが漏れる出入り口に着いた。 「ここがカースに近い入口だ」 「ここから出るのか?」 「それを今考えてる」  トーヤが右の掌に魔法の灯りを灯しながら考える。 「いっそ洞窟を出てキノスへ行くか、それともカースへ行くか、さてどうすっかな」 「なんだよ~たよんねえな、なんか考えあるんじゃねえのかよ」 「あるはずねえだろ、あんな状態で。もう逃げられる場所がねえからしょうがなくてここ来たんじゃねえか」 「おい、兄貴残して来てんだぜ、なんとか考えてくれよな!」     言われてしまえば最もなことだ。  アランは何があるか分からないのに自分だけ残る道を選んだ。  その気持ちに答えてやるためにも、間違いのない道を進まないといけない。 「ほんっとに上から見てるやつが教えてくれりゃあいいんだがなあ」 「とにかく、進むかここから出るか決めてくれよ。どうすんだよ」 「誰かどっちか教えてくれりゃいいのになあ」  トーヤがカースへの出入り口を見ながら、そういう泣き言を吐いた時、  ギイッ 「え!」  山の岩肌のように偽装してある隠し扉が開き、まだ若い男がひょっこり中を覗いた。  トーヤとベルが扉の真正面にいたため、その男とバッチリと目が合い、そして、 「トーヤじゃねえか!」  中からは外の薄明るさのせいで顔が見えない男がそう言った。  トーヤが警戒しながら黙ったまま男の次の動きを待つ。 「俺だよ、俺。ほら、ダルの兄貴のダリオだよ」 「ダリオか!」  ダルの次兄である。 「なんでこんなとこにいるんだよ」 「それはこっちのセリフだぜ、なんでこんなとこに、って……」  トーヤはそこまで言ってニヤリと笑う。 「あそこか、キノスか」 「あちゃー」  男はペシッと自分のおでこを叩くと、 「封鎖だからなあ、しゃあねえだろうが、あそこ行くしか」  と、表情は見えなかったが笑いを含みながらそう言った。  ダルがアランにトーヤに伝えてくれと言った伝言が前にあった。  ダルの祖父母も両親もそして兄たちも元気だということ。  長兄のダナンは結婚したが、次兄のダリオはまだ遊んでいて母にはたかれている、と。    だが今はまだダルと会ったことがないことにしておいた方がいいだろう。 「まーだ兄貴と2人で遊びに行ってんのかよ」    わざとそう聞く。 「いやいや、兄貴は嫁さんもらってからすっかり大人しくなっちまってな、そんでしゃあないから一人でこうして母ちゃんの目を盗んで出てきてんだよ」  そう言ってダリオは楽しそうに笑った。   「って、まさかトーヤも今からキノスに? じゃあなさそうだな。ってことは、まさかキノスから来たのか? 封鎖で入れなくなったから」  どうやらここに出ろと出迎えが来たようだ。
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