スタジオ『ブルーペガサス』(三人称)

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スタジオ『ブルーペガサス』(三人称)

 白神山のペンションでの連続殺人事件から三ヶ月が経った。すでに夏は過ぎ秋も深まっていた。その間、当真刑事は銃撃戦の責任を取り諭旨免職になった。  男女共作の漫画家・高樹イズミは新作のミステリー漫画を発表した。  超特大、百二十ページの読み切りスペシャルだ。  タイトルは、『プリンセス・シャーロット&プリンス』。売れない地下アイドルの如月シャーロットがセレブ警部補のプリンスこと若王子聖矢と組んで摩訶不思議な事件を解決していくと言う物だ。  読んでもらえば一目瞭然だが、ヒロインのシャーロットのキャラクターはデカ天使アンジェラがモチーフになっている。  何しろ決めゼリフは『この世にうごめくすべての謎はこのプリンセス・シャーロットに解かれたがっているのよ!』だ。  さらに容疑者に対して『真犯人はあなたに決定!』と言って逮捕に至るのだ。  間違いないだろう。  東京都千代田区にあるタワーマンションの最上階に高樹イズミのスタジオがあった。  スタジオ『ブルーペガサス』。  高樹ヒカルと寺原イズミ、ふたりの共同名義のスタジオだ。  担当編集者の平瀬がやって来て歓びの声を上げた。 「いやァ、好評ですよ。先生。今回のスペシャル読み切り『プリンセス・シャーロット』」  手には何冊も漫画を持ってきていた。 「ハイ、どうぞ」  ヒカルやイズミに配っていく。 「やったァ。良かったですね。先生」  アシスタントの武智みなみも平瀬から漫画本を受け取り満面の笑みを浮かべた。 「ああァ、そりゃァひと安心だ。これでダメだったら、それこそ言い訳が出来ないからなァ」  ヒカルも嬉しそうに微笑んだ。 「フフゥン、そうね。ダメだったら、またヒカルの愚痴を聞かなきゃならないトコよ」  イズミがチクッと憎まれ口を叩いた。 「ハッハハッ、痛いトコ突いてくるねェ」  ヒカルも苦笑した。 「だって面白いわよ。今度のプリンセス・シャーロットはアンジェラちゃんだし。セレブ警部補のプリンスはヒカル先生そのものじゃん」 「フフゥン、バカ言えよ。オレはこんなにカッコ良くはないよ」  自嘲気味に笑って応えた。本の表紙はイケメンのセレブ警部補、若王子聖矢と美少女アイドルのシャーロットが載っていた。
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