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真実が正義だとは限らない
「必ずしも真実が正義だとは限らないと!」
「うッ?」
そうだ。それはあのペンションの従業員だった松井の言葉だ。
「そう、姉のマリアはやっと幸せを掴みかけたんだよ」
ようやく当真が真相を語り始めた。
「ええッ」アンジェラもうなずいた。
「最愛の人、石津祐次郎さんを失って、オレと愛理の娘……、美月を養女にして必死に生きてきてようやく彼に出逢ったんだ」
「カンさんですねえェ……」
「ああァ、彼は子供がいても構わないと言ってくれた。ようやく姉も幸せになるはずだったんだ」
「だけど阿久堂たちの無謀な信号無視で轢き逃げに遭ってしまったんですね」
ヒカルが問い詰めた。
「そうだ。運転していたのは阿久堂だが蛸島もその助手席に乗って、脱法ハーブを吸っていたんだ」
当真の声も心なしか震えていた。
「それで運転を誤って信号無視を。ヤツらは脱法ハーブを使っていた事を隠そうと轢き逃げしたんですねえェ」
ヒカルが苦渋の表情で確信をついた。
「ああァ……」
「なるほど、だからマリリンは蛸島に復讐をしたんですね。美月ちゃんとマリアさんのために!」
さらにアンジェラが追求した。
マリリンは終始、無言でうつむいたままだ。
「……」
また胸を締めつけられるような重たい沈黙が流れた。頬を撫でていくそよ風が涼やかだ。
「いつからオレたちの犯行だと……」
当真がかすれた声で訊いた。
「そうですね。蛸島の感電死を見た時からでしょうか」
「え、そんなに前から」
「ええッ、何しろすべての謎はこのデカ天使アンジェラに解かれたがっていますので」
「ううゥ……」
すっかりマリリンも観念したようだ。
「すでにあの忌まわしい事件から三ヶ月が経っています。警察はすべて多胡オーナーによる復讐の惨劇だと発表しました。私たちは今さら事件の真相を突き止めて、ひっくり返す気はありません」
アンジェラはニッコリと微笑んだ。
「えッ?」
「ボクは元々、漫画原作者で素人探偵ですからね。警察がボクの言い分を聞くことはないし、もちろんこのことを公にする気はありませんよ」
ヒカルも請け負った。
「ボクもです」大きくうなずいた。当然だろう。
アンジェラやヒカルを差し置いて秘密を暴露するワケにはいかない。当真慎也と水田マリリンのためにも。
「それじゃァ」ふたりの顔が輝いた。
「多胡オーナーの思いに免じて」
アンジェラは優しく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
ふたりは深々と頭を下げた。
おそらく、これで良かったのだろう。
多胡オーナーが命を賭けてまで隠し通した真相だ。オーナーの思いを踏みにじってまで事を荒立てることはないだろう。
いつだって真実が正義とは限らないのだから。
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