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「何か桜木くんと買い物って、新鮮だね」
「そうだね。いつも結羽ちゃんがいるしね」
蓮は前を見て運転しながら、笑った。
ちらりと彼の横顔を見る。実は声だけでなく、顔もかなりタイプだ。突然、さっきの胸の痛みが何なのか、ちょっとわかった。
――――たぶん私、彼に恋をしているのだ。
「スーパー、どこでもいい? 松川さん」
赤信号で車が止まり、蓮がこちらへ顔を向けた。慌てて、視線を前に戻す。
「う、うん。どこでもチキンは、売ってるだろうし」
「そうだね。そしたら、すぐ近くの所にするね」
そう言って、信号が変わると同時に静かに走り出す。そのあとも他愛のない話をしていたが、彼を意識しすぎて何を話したか覚えていない。
スーパーの駐車場に着くと、蓮に少し待つように言われる。言われた通りに大人しく待っていたら、助手席のドアが開いた。
「はい、どうぞ」
蓮が助手席のドアを開けて、車から降りられるように手を差し出す。その流れるような仕草に驚く。
「いつも、こうしてるの?」
「うん。お客さんとかを接待することもあるから癖で」
何と素晴らしい癖なのか。
おずおずと差し出された手を握る。そのまま優しく引っ張られ、すんなりと車から降りられた。
彼はドアを閉め、先に歩き出す。
すでに手は離されていて、もう少しだけ繋いでいたかったなと思ってしまう。
「ローストチキン以外にも何か買う?」
「え、あ、うん! サラダとか買おうかな」
「じゃあ、まずは野菜コーナーから行こうか」
そう言って、蓮は買い物カゴを持ち、野菜コーナーの方へ歩いていく。その後を追いながら、初めての二人の買い物にちょっとドキドキする。
だけど、あっという間にお互いの買い物が済み、車に戻る。私の買った荷物を当然のように持ってくれた。
「家まで送るよ」
「え、ごめん。ありがとう」
「何で謝るの?」
彼は少し可笑しそうに笑った。
駐車場に着くと荷物をトランクにいれ、再び助手席のドアを開けて乗せてくれる。どこまでも紳士な人だ。
車が発車し、ゆっくりと窓の外の風景が流れていく。
「仲直りできるといいね」
不意に蓮が呟く。
思わず、窓の外へ向けていた視線を彼に向ける。
「いつ、大事な人が目の前からいなくなるのか、分からないから」
「……それって、上野くんのこと?」
「そう。アイツ、今でもずっと後悔してる」
蓮が苦しそうな表情をする。
まるで、自分が経験したかのように――――。
他人の痛みも自分の痛みのように思える心優しい人。つい、守ってあげたくなる。
だんだん、外の景色が見慣れた住宅街になっていった。少し雪がちらついている。
「……桜木くん、好きだよ」
ふと呟いてから、すぐに我に返った。
今、自分は何と言っただろうか。
頭が真っ白になる。
だが、タイミング良いのか悪いのか、信号が赤になり、車が止まる。
「……」
車内が沈黙に包まれ、反応が怖いのと恥ずかしいのとで、彼の顔を見れない。
どれくらい時間が経っただろうか。
意外と一分も経っていないのかもしれない。
不意に隣で彼が口を開こうとする気配を感じた。
「――――松川さん、ありがとう。すごく気持ちは嬉しい」
「な、なんかごめん! いきなり過ぎだよね!! つい、口が……」
彼が前を向いたまま、やんわりと私の言葉を遮る。
「ううん。まずは、お互いのことをもっと知るところから始めてみない?」
「……え?」
まさかの返事に、思わず彼の顔をまじまじと見つめる。信号が青に変わり、彼は前を向いたままだ。横顔からは、あまり感情が読み取れない。
だが、彼の耳がほんのり赤い。
じわじわと言われたことの内容が頭に入ってくる。
「え、え……いいの?」
「うん。松川さんのこと、もっと知りたい」
今日は、やっぱりタイミングが良い。
いつもはそんなに信号に引っ掛かることはないのに、また赤信号になった。
そして、彼が真っ直ぐにこちらを見る。
何だか、素敵なホワイトクリスマスになりそうな予感がした。
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