第2章 フライドチキン派~蒼空ver~

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「俺さ、お前ぐらいの時に交通事故で親を亡くしてるんだよ」  突然、口を開いた和真が訥々と語り始めた。 「朝、親と喧嘩してそのまま、仲直りできずに永遠に会えなくなった」 「……」  何も言葉が出なかった。こういう時、どう反応すればいいのか分からない。  だけど、彼の言いたいことはしっかり伝わった。和真は親と仲直りできず、今でも気持ちが宙ぶらりのままで、ずっと後悔し続けているのだろう。  “失ってから気付くのは遅い”、のだ。  結羽が和真の頭をぽんぽんと撫でた。  それは、大切な人を愛おしく思う優しげな表情(かお)をしていた。  二人の姿を見て、和真には敵わないなとふと思う。なんだか無性に姉弟二人に会いたくなった。 「俺、海未姉と陸空にちゃんと謝ろうと思う」 「うん」 「あと、陸空には感謝の気持ちも伝える」  結羽と和真が二人揃って頷く。  そうだ、自分等は陸空の優しさに甘えていた部分があった。いつの間にか、陸空が作ってくれるだろうと当たり前のように思っていた。自分達が作ろうとは微塵も考えずに――――。 「フライドチキン、買って帰るの……アリかな?」 「うん、いいと思う!」 「オススメの店、教えてやるよ」  二人が笑顔で反応する。 「なんなら、一緒に買いに行くか? 丁度、俺らも買い出しに行く予定だったし」 「え、いいんですか?」 「もちろん。行こっ」  結羽の言葉に、和真も頷く。 「お前は、たまに甘えることも覚えた方がいいぞ」  そう言って、背中を叩かれた。少し痛かったが、じわじわと温かい気持ちになる。兄がいたら、こんな感じだったのだろうか。ちょっと照れ臭い。  喧嘩してどうしていいか分からなかった俺には、二人の優しさが心に染みる。姉は友達に恵まれている。  そして悔しいが、和真は男の俺でも惚れそうになるほど良い男だとも思った。 「ありがとうございます!」  全力の笑顔で礼を言う。二人はその笑顔に応えるように笑ってくれた。  それからしばらくして、結羽のバイトが終わり、三人で店の外に出る。 「あ、雪だ!」  外を歩いていた親子連れの会話が耳に届く。 「本当だね。ホワイトクリスマスだねぇ」 「ほわいとくりすます?」 「そう、クリスマスの日に白い雪が降ることを言うのよ」 「へぇ! なんだか、とくべつな日だねっ!」  そう言って、笑顔で目の前を通り過ぎていった。 「特別な日かぁ」  自分より頭2つぐらい背の低い彼女が、空に手を伸ばして呟く。和真も見上げ、俺もつられるように空を見上げる。ふわふわと白い冷たいものが顔に当たって溶けていく。 「今日は、蒼空くんにとっても日になるね」 「え……?」 「大喧嘩して、ちゃんと仲直りした日」  彼女はそう言って、ふわっと笑った。  本当に彼女の笑顔は、周囲の人の心を温かくする力があると本気で思う。本当に好きすぎて困る。  ――――だけど、今はその気持ちは少し弱まった。彼女が本当に傍にいるべき相手は、俺ではないとさっき思ったから。 「ちゃんと仲直り……、できるといいけど」 「大丈夫だ。言葉にすれば、相手にちゃんと伝わるから」  彼女の隣にいる和真が、真っ直ぐにこちらを見つめて言う。  その真っ直ぐさが好きだなと不覚にも思ってしまった。 「頑張ります」  ちゃんと彼の目を見て言う。そして、真っ白い絨毯のような地面に一歩足を踏み出した。
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