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「俺さ、お前ぐらいの時に交通事故で親を亡くしてるんだよ」
突然、口を開いた和真が訥々と語り始めた。
「朝、親と喧嘩してそのまま、仲直りできずに永遠に会えなくなった」
「……」
何も言葉が出なかった。こういう時、どう反応すればいいのか分からない。
だけど、彼の言いたいことはしっかり伝わった。和真は親と仲直りできず、今でも気持ちが宙ぶらりのままで、ずっと後悔し続けているのだろう。
“失ってから気付くのは遅い”、のだ。
結羽が和真の頭をぽんぽんと撫でた。
それは、大切な人を愛おしく思う優しげな表情をしていた。
二人の姿を見て、和真には敵わないなとふと思う。なんだか無性に姉弟二人に会いたくなった。
「俺、海未姉と陸空にちゃんと謝ろうと思う」
「うん」
「あと、陸空には感謝の気持ちも伝える」
結羽と和真が二人揃って頷く。
そうだ、自分等は陸空の優しさに甘えていた部分があった。いつの間にか、陸空が作ってくれるだろうと当たり前のように思っていた。自分達が作ろうとは微塵も考えずに――――。
「フライドチキン、買って帰るの……アリかな?」
「うん、いいと思う!」
「オススメの店、教えてやるよ」
二人が笑顔で反応する。
「なんなら、一緒に買いに行くか? 丁度、俺らも買い出しに行く予定だったし」
「え、いいんですか?」
「もちろん。行こっ」
結羽の言葉に、和真も頷く。
「お前は、たまに甘えることも覚えた方がいいぞ」
そう言って、背中を叩かれた。少し痛かったが、じわじわと温かい気持ちになる。兄がいたら、こんな感じだったのだろうか。ちょっと照れ臭い。
喧嘩してどうしていいか分からなかった俺には、二人の優しさが心に染みる。姉は友達に恵まれている。
そして悔しいが、和真は男の俺でも惚れそうになるほど良い男だとも思った。
「ありがとうございます!」
全力の笑顔で礼を言う。二人はその笑顔に応えるように笑ってくれた。
それからしばらくして、結羽のバイトが終わり、三人で店の外に出る。
「あ、雪だ!」
外を歩いていた親子連れの会話が耳に届く。
「本当だね。ホワイトクリスマスだねぇ」
「ほわいとくりすます?」
「そう、クリスマスの日に白い雪が降ることを言うのよ」
「へぇ! なんだか、とくべつな日だねっ!」
そう言って、笑顔で目の前を通り過ぎていった。
「特別な日かぁ」
自分より頭2つぐらい背の低い彼女が、空に手を伸ばして呟く。和真も見上げ、俺もつられるように空を見上げる。ふわふわと白い冷たいものが顔に当たって溶けていく。
「今日は、蒼空くんにとっても特別な日になるね」
「え……?」
「大喧嘩して、ちゃんと仲直りした日」
彼女はそう言って、ふわっと笑った。
本当に彼女の笑顔は、周囲の人の心を温かくする力があると本気で思う。本当に好きすぎて困る。
――――だけど、今はその気持ちは少し弱まった。彼女が本当に傍にいるべき相手は、俺ではないとさっき思ったから。
「ちゃんと仲直り……、できるといいけど」
「大丈夫だ。言葉にすれば、相手にちゃんと伝わるから」
彼女の隣にいる和真が、真っ直ぐにこちらを見つめて言う。
その真っ直ぐさが好きだなと不覚にも思ってしまった。
「頑張ります」
ちゃんと彼の目を見て言う。そして、真っ白い絨毯のような地面に一歩足を踏み出した。
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