第43章  エピローグ

1/1
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ

第43章  エピローグ

「 凄いお式だったわね!……でも、楽しかった。最後は貰い泣きしちゃったし 」 まだ春と呼ぶには寒さが抜けきらない東京での三月の吉日…… 朱音は満面の笑顔で、少し後ろを歩く夫の優を振り返った。 「 そうだね、薫子さんの涙って……意外だったけど、なんか感動的だったな 」 「 マスターも、泣いてたわよね 」 今日は、剣吾と薫子の結婚式だった。 賑やか好きな二人が選んだ式は、有名ホテルでの大掛かりなものだった。 剣吾側は、仕事関係者から名古屋での親しかったお客連中、バンド時代に親交のあった友人達まで。 薫子側は、会社関係からかつての合コン仲間、短大時代のサークル仲間まで、総勢実に二百名近い人数の式となったのだった。 薫子は、ここぞとばかりに色取り取りのドレスを4回も着替え、さながらファッションショーのように着せ替えを楽しんでいたし、剣吾は余興として高見や吉川を巻き込んで “ 伝説のバンド レイヤーズ 一日限りの復活ライブ ” と称して自分達の昔の曲を披露したりした。 結婚式というよりは、“ 剣吾 & 薫子ショー ” とも言えた催しは、皆を十二分に楽しませた。 本来なら式の最後に花嫁から両親に宛てる手紙も、誰の計画かはわからないが、薫子の両親から “ 勝気でお転婆娘へ ” という題名で…… また、剣吾の両親から “ 頑固で一途な息子へ ” という題名で…… それぞれの親達がサプライズで手紙を読んだ。 この二人にしてこの親有り、という包容力に溢れた彼等の温かい文章に、新郎新婦は号泣したのだった。 そして、剣吾の仕事が東京基点となるため、新居も生活も全てのベースをこっちにした。 薫子は仕事を辞めるのではなく、この四月から東京の支店勤務を願い出て、川上の計らいで正式な添乗員兼ツアーデザイナーとしての配属が決まった。 辺り一面夕焼けのオレンジに包まれた街中を、朱音と優は名古屋に帰るべく歩いていた。朱音が歩調を落として優と並んだ。 「 腕……組んでもいい?」 「 腕と言わずに、久しぶりに手を繋ごうか?」 優は朱音の手を自分の手にしっかりと繋ぎ、心なしか淋しそうに見える妻に微笑みかけた。 「 淋しいんだろう?彼女と離れてしまうのが 」 朱音は俯いたまま小さく頷いた。 「 最初から、あの娘のことはあんまり好きじゃなかったの。同期で同じ配属だったけど、仕事よりアフターファイブ重視の考え方が嫌いでね。仕事だって、ホントはやれば出来るのにやらないっていう姿勢が嫌だった。口も悪かったし、遠慮なくズケズケ言うし!だから、二年半位は殆ど付き合いも無かったし、近づかないようにしてた気がする 」 突然薫子とのことを語り出した朱音に、優は内心ちょっと驚きながらも、黙って頷いた。 「 全ての切っ掛けは、優だったのよ?知ってた?」 「 僕?それは……なんとも光栄の至りだね!」 朱音は思い出し笑いをしながら、優を見上げる。 「 結局ちゃんと向き合ってみれば、誰よりも本当の事を言ってくれて、決して誤魔化したり嘘はつかない、それでいて踏み込み過ぎないでいてくれる……この二年間で私、薫子のことが大好きになったわ 」 「 傍から見ていても、君達は良いコンビだったよ。でも、これからだって良いコンビでいられるんじゃないか?名古屋と東京だって、同じ会社なんだからね、そうだろう?」 だが、朱音はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて首を振る。 「 仕事では……そうはいかないわ、これからはライバルよ。私も来月からツアーデザイナーのサブチーフですからね!」 優はクスクスと笑った。 「 ほら、やっぱり良いコンビじゃないか!」 それから繋いでいた手にギュッと力を込めた。 「 そして、一生の友達になるよ、きっと 」 二人は束の間見つめ合い、同じ想いを共有した。 そしてどちらからともなくニッコリ微笑むと、オレンジ色の街中をしっかりと手を繋いで歩いて行った。        THE END ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  あとがき 作品を、お読みいただいた沢山の方々、本当にありがとうございました。 ページスタンプ、スターを送っていただいた沢山の方々、心から感謝致します。 この作品は、『 あなたに帰りたい 』から生まれたスピンオフ作品です。 マスターのキャラが大好きで、あんな距離感で見守ってくれる人が誰かを愛したらどんな感じになるかなぁ?と想像したり、実は朱音よりも好きなキャラだった薫子を主人公にした物語を書いてみたいなぁ……なんて想像を巡らせているうちに生まれた物語でした。 最後の終わり方には不自然さが残ったかもしれませんが、この物語の始まりが『あなたに帰りたい』だったので、最後は朱音と優に二人を見守って終わらせたいという私の個人的な我儘を通してのエピローグでした。 ドキドキハラハラキュンキュンの場面はさほど多くはないのですが、人が人を想う気持ちの機微をこれからも丁寧に描いていきたいと思っています。 これからもよろしくお願いいたします。              美瞳 まゆみ
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!