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修平が1人涙に暮れ、河川敷の草の上に座り込んでいると夜空に花火が上がりだした。
花火大会の幕開けだ。
夜空に大輪の華を咲かせては消えていく花火。
修平は1人夜空に浮かぶ花火を眺めていた。
「先輩」
突然声をかけられる。
声と、その呼び方で誰かはすぐに察しがついた。
「横いいですか?まぁ駄目って言われても座りますけどね」
そう言って浴衣姿の華菜が横に座る。
「華菜……駄目だったよ。あの花火達と一緒で一瞬で散っちまった」
修平は華菜の方を振り返る事もなく夜空を見つめながら力無くそう呟く。
「……まぁ見ればわかりますよ……でもいいじゃないですか。花火綺麗ですよ。一瞬でも咲かせられたんなら」
そう言って明るく笑う華菜の横で修平はただじっと夜空を見つめていた。
「……もぅ。空ばかり見上げてないでいい加減こっちも向いてくれませんか?先輩」
華菜が修平の方へと体を向けじっと修平を見つめる。
「無理だよ華菜……泣き顔お前に見られるじゃないか……」
修平はそう言って苦笑いを浮かべ僅かに華菜の方に視線をやった。
次の瞬間、華菜が修平の頭を両手で抱え自らの胸に埋める。
突然の事に驚き固まる修平。
「ほらこれなら泣き顔見られないですよ。先輩はもっとボリュームがある方が好みかもしれませんけど贅沢は言わないで下さいね……今だけはいいですよ……強がらなくても……」
華菜が自分の胸にある修平の頭を撫でながら優しく語りかける。
「花火みたいでもいいじゃないですか。一瞬で散ってもまたすぐに打ち上がってるんですよ。また次がありますよ。それと泣き止んだら顔上げてもらってもいいですか?」
そう言われて顔を上げた修平の目元と鼻の頭は赤くなっていた。
「はい、やっと私の方見てくれましたね。まだ慰めた方がいいですか?私の最後の仕事は手紙を渡して来るんじゃなくて、慰める事だったんですかね」
そう言って華菜は自分の胸の前で両手の五指を合わせ、明るい笑顔を見せる。
何時しか花火は小休止に入り、辺りは静寂と暗闇に包まれていた。
「……先輩。……そろそろ本当に私の方を見てくれませんか?」
華菜が頬を赤らめて、微笑みを浮かべながら潤んだ瞳で見つめてくる。
修平はようやく気付いた。気が付くといつも傍には華菜がいた事を。
そしてそんな華菜の事を1人の女性として意識し始めていた自分がいた事を。
いや本当はもっと前から気付いていたはずだった。
だが一瀬への想いもあり、気付かない様にしていただけなのだ。
「華菜……そう言えばまた今日も華菜の方から声かけてくれたな」
「ええ、だって私はいつも先輩の事、見てましたから」
そう言って華菜は身を乗り出し修平の首に腕を回した。
その時、大きな花火が夜空に上がり2人の重なる影を地面に映し出した。
「また花火上がり始めましたね」
「ああそうだな。……綺麗だな」
夜空を彩る花火を見つめる華菜を見て、修平が呟いた。
「どうですか先輩……私、結構待ちくたびれちゃいましたよ」
屈託のない明るい笑顔で華菜が問いかける。
「そうか、だいぶ待たしちゃったんだな。……でもなんか俺、今更都合良過ぎないかな?」
「なんですかそれ?先輩が都合良過ぎるかどうかは私が決めるんじゃないですか?もし負い目でも感じるなら気の利いた一言、私にかけてくれてもいいんじゃないですかね?」
「そっか。そうだよな……なんか随分遠回りしたけど、まぁ、その……やっと華菜の事が大事だと気が付いたよ」
修平のちょっと照れたぎこちない告白に華菜の笑顔が弾けた。
「これからはちゃんと私の事、見てくださいね」
2人の恋の始まりを祝うかのように花火は上がり夜空を彩っていた。
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