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見つめるのも程々に
関西地方に流れる大きな川がある。
その川の河川敷では、毎年数万発規模の花火大会が開催されていた。
夏の夜空に大輪を咲かせ、一瞬の煌めきで観る者を魅了する数多の花火。
人々は夜空を彩る花火を見ては「綺麗だ」「凄い」と各人各様の思いを口にする。
『好きな人と花火大会に来ると結ばれる』
『恋人と来るとずっと一緒にいられる』
と言った恋愛成熟等の言い伝えや伝説がこの花火大会にある訳ではなかった。
しかし好きな人や恋人と地元の花火大会に一緒に行きたいと思うのは、いたって普通の事ではないだろうか。
そんないたって普通の思いを抱いていたのが修平だった。
修平は特に端正な顔立ちで成績優秀、という事もなくごく普通の高校に通う18歳の高校生だった。
「お疲れ様でしたー。お先に失礼します」
そう言って修平はバイト先のコンビニを後にする。
修平はバイト先から自宅までの帰り道にあるお洒落なアンティーク感を醸し出す少し古い喫茶店を外から覗いていた。
『ああ、一瀬さん忙しそうだな』
修平の視線の先では数名のお客を相手に店員の女の子が忙しそうに動き回っていた。
「あぁ、今じゃないですね、入るのは」
突然後ろからした声に驚き、慌てて振り返るとそこにはショートカットに綺麗な栗色の髪が印象的な少女が少し腰をかがめて立っていた。
同じ高校で1つ後輩の華菜だ。
「なんだ華菜か。びっくりさせるなよ」
少し安堵し、修平が軽く華菜に文句を言った。
「なんだ、ですか。ああ、そうですか。それはすいませんでした。一瀬先輩に『貴女ストーカーされてますよ。気を付けて下さいね』って教えて来てあげようかな」
そう言って華菜は冷ややかな視線を修平へ向ける。
「おい。止めろ」
慌てて修平が取り繕おうとする。
「あ、そうか。今忙しそうだし迷惑かな?後で教えてあげよう」
華菜は手を軽く叩き、修平に笑顔を向ける。
「おい、止めろって。だいたい誰がストーカーなんだよ?」
「え?一瀬先輩の事をいやらしい目で見ながら、危ない想像を掻き立ててる、私の目の前にいる男性の事ですよ」
華菜が冷ややかな笑みを浮かべて言ってのける。
「だ、誰が危ない想像してるんだよ?俺は決してそんな事考えてないからな。……え?周りから見たらそんな風に見えるのかな?」
修平が慌てて否定するが、自分で言ってて不意に少し不安になる。
「ふふふ、どうでしょうね?先輩の事知ってる人ならそうは思わないかもしれませんけど、知らない人が見たらヤバい奴だって思うかもしれませんよ」
そう言って華菜は屈託のない笑顔を見せる。
「いやぁ……」
頭を掻きながらそう言って俯く修平を見て、華菜が語りかける。
「いつまで遠くから見てるんですか?いい加減行動に移しませんか?『当たって砕けろ』って言葉もあるでしょ?」
「いや、簡単に言うなよ。それに砕けたくないんだよ」
諭すように語りかける華菜に対して修平は反論していた。
「まぁ確かに行動しないんなら砕ける事はないですけどね。一瀬先輩、結構人気ありますからね。知りませんよ、どうなっても。……あ、でもだからって変な行動はしないで下さいね。先輩が捕まったりしたら流石に笑えないんで」
「お前なぁ、俺をどんな奴だと思ってるんだよ?」
からかいながら楽しそうに笑う華菜に修平がツッコんでいた。
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