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見返り
「先輩。お待せです」
修平が待ち合わせ場所でスマホを触りながら立っていると華菜が少し息を切らしながら駆け寄り、声をかけてきた。
「なんだこの暑いのに走って来たのか?」
修平が少し目を丸くして華菜に問いかけた。
「いや、今日こそは先に行って待ってようって思ってたのに、結局遅くなっちゃって」
息を切らしながらも華菜が笑顔を見せる。
「そうなのか?俺はちょっとぐらい遅れられてもそんなには気にしないぞ」
「いや、その……いつも私から声かけてるからたまには逆で行こうかな、とか思ってたんですけどね」
そう言って少し照れた様な笑顔を見せる華菜。
確かに振り返ってみるといつも華菜の方から『先輩』と声をかけられてばかりだった。
そんな事を考えながら今一度華菜に目をやる。
白地のTシャツにショートパンツ姿。ラフな格好ではあるが普段あまり見ない私服姿の華菜に思わず少し意識してしまう。
「あ、今日何処行きます?私結構お腹空いてきましたよ」
修平の心中を察する事もないように華菜が覗き込み屈託の無い笑顔を見せる。
「よ、よし、じゃあ何にしようか?華菜が食べたい物は?」
「え?私は何でもいいですよ?先輩のセンスに任せますから」
そんな事を話しながら『せっかくだから』という事になり雑誌でも紹介された事がある老舗の洋食屋へと2人入って行った。
――
「それで花火大会の件ですけど、一瀬先輩に手紙書いて呼び出しますか?その方が手っ取り早いと思うんですよ」
華菜が美味しそうにハンバーグを頬張りながら修平に提案していた。
「手紙って……何書いたらいいんだよ?だいたいどうやって渡す?」
手紙なんか書いた事もない修平は華菜の提案に戸惑いを見せる。それが意中の相手なのだから尚のことだ。
「内容は流石に自分で考えて下さいよぉ。手紙を渡すぐらいは私が渡してきてあげます。私の最後の仕事ですね」
そう言って華菜が満面の笑みを見せる。
結局華菜と2時間程、他愛もない事を話しながら歓談を楽しみ、華菜を送って行く事になった。
「今日はありがとうございました。楽しかったです。じゃぁ手紙書いたら言って下さいね。一瀬先輩に渡しといてあげますから。それとも今から一緒に私の部屋で手紙考えますか?」
少し意地悪そうにニンマリと歯を見せて華菜が笑う。
「いやいや、流石に1人で考えながら書くよ。ありがとうな。また書いたらよろしく頼むな」
「そうですか。じゃあ頑張って考えて書いて下さいね。時間がないから急いで下さいよ。じゃあまた」
そう言って手を振りながら家に入る華菜を見送った。
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