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横浜
7月7日、午後20時。
生ぬるい風が途絶えることなく肌を撫でる。
街や船の明かりを反射させた水面が揺らめいて、海全体が眩いばかりに煌めく。
横浜。
橙色にライトアップされた赤レンガ倉庫を背に、ただ僕は海を見ている。
本当は、海を見に来たわけではなかった。
普段は見上げることのない夜空を、七夕であることを口実に見に行こうと思い立ったのだ。
しかし、海と周りの景色が明るすぎるが故に、目の前のベンチにも気づかないほど真っ暗な臨港パークを海に沿って歩いても、見えたのは街明かりに照らされ淡い輪郭を持った雲と藍色の空。そこにチラチラと小さな星がわずかに光るのみ。
七夕の日はいつも思い出す。
何年前のことだろうか。もう数えることもできないぐらい、ずっと前だ。
あの日、君と見上げた夜空には、しっかりと形を持った無数の星々がそこに輝いていた。
「必ず、また会おうね」
あの日の夜の、その一夜のその一瞬に、僕らは永遠を願った。
隣に座る君が口にしたその言葉が、僕の唯一の希望だった。
だが、その言葉はもはや原型を止めず、呪いとなって僕の心に鈍い色を残す。
君が今、どこで何をやっているのかも、僕にはわからない。
途方もなく遠くに行ってしまった君は、もうすっかり見えなくなっていた。
理由がないと星なんて見に行かない。
だからここまで足を運んだのに、横浜は夜空より、街の方が明るかった。
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