1人が本棚に入れています
本棚に追加
幼い頃から時々、言いしれぬ寂しさを感じていた。
自分の家にいるのに、何処かへ帰りたいと強く思っていたり、両親が側で寝ているのに独りで寂しいと静かに涙を流すこともあった。
両親も親戚も友達も、わたしの周りにいる人達はみんなみんな優しかった。
それでも、寂しさは消えてなくなることはなかった。
私はたまに、自分の身体を自分が動かしていないのではないかと思うときがある。
月明かりもない静かな夜に散歩をしたとき、自分の身体が意思とは関係なく勝手に歩みを進めるのだ。
人と会話をするときにも、話をしているのは自分なのだが自然に言葉が口から溢れて、私ではない私が言葉を紡いでるように感じることもあった。
肉体だけが先へ進んで、心が置いてけぼりにされている感覚。
それは年齢を重なれば重ねるほどに強くなっていった。
自分で働いて生計を立てなければいけなくなってからも、言いしれぬ寂しさを抱えた心は、置いていかれることが増えていった。
そんなとき決まってわたしは夢をみた。
毎回内容は異なるのだが、複数回同じ夢を見ることや、夢の続きを見ることがあった。
その中で印象に残っている夢がある。
ある夏の夜に山へ向かっている夢。
向かう理由もわからないし、現実に存在する山なのかもわからない。
でも何故か、その山へ行きたいのだと心が語りかけてくるのである。
だが私は一度も山へ辿り着いたことはない。
いつも山にすら登れないのだ。
なんとなく、まだ辿り着くことが許されていない気がする。
いつもいつも気が付けば朝になっている。
最近は残念ながらその山の夢は見ないのだが、毎年夏がくると思い出すのである。
あの山で懐かしい誰かが待っているような、そんな感覚になるのだ。
私は何にノスタルジーを感じているのだろうか。
その正体がわかる日がいつか訪れることを願う。
最初のコメントを投稿しよう!