カニ食うひと

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 結婚したての頃に夫の行動に驚いたことがあった。夕食後に些細な事で喧嘩をして、私がお風呂に入っている内に夫は早々と寝室に入って行った。お風呂を上がっても、もやもやしていた私は録画していた映画を見始めた。夫の苦手なミステリー映画だった。人が追い詰められるのを見るのが嫌なのが理由らしい。本当は単純に血が苦手なのではと疑っている。  映画を観てベッドにはいったのが十二時頃。夫は盛大ないびきをかいて寝ていた。いつものことだったけど、この日はいびきが夫の愚痴みたいに聞こえて中々寝付けなかった。だから夫が朝の三時にベットをそっと抜け出した時、薄い意識の中で夫が私に嫌気をさして家出をしたのだと思った。  土曜日の朝、目覚めたら夫がいなかった。あれは、夢ではなかったのだと呆然としていると、夫から携帯電話にメッセージが届く。 『カニ、これから食べます』  意味が分からず、メッセージを見つめていると、画像が送られてきた。 『カニ』  夫がやけに早く寝た理由が、私との口論ではなくカニのためだったのだと分かり、ベッドに倒れ込む。笑いがこみ上げてきて、枕に顔を押しつけて思い切り笑った。 『明日の夕方までに帰る』
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