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簡素な夫のメッセージには苛立つこともあるが、この時は夫のマイペースさに救われた気がした。
思いがけずひとりの時間が出来て、それなら映画館に行ってみようと思い立つ。携帯電話で上映中の映画を検索し予約を取って、近所の映画館まで自転車で駆けつけた。なんの映画を観たのか思い出せなかった。夫がうたた寝した映画なら覚えているというのに。
「食べないのか?」
「えっ」
すっかりカニを食べに来ていたことを忘れて物思いにふけってしまっていた。
「食べるわよ」
「……」
カニと私がピンチにあっていたら、迷わずカニを助けるんだろうなと、羨ましい気持ちでカニ身に齧り付く。ものすごく塩辛い。カニの逆襲にむかっと来て、カニの足をパキパキ折ってやった。夫はまた肘を脇腹に擦り付けている。
「ねえ、痒いの? アレルギーじゃないよね?」
「たぶん」
彼は手指と口をおしぼりで拭いて息を吐いた。
「ごちそうさま?」
「いや。スパゲティー美味かった?」
「う、うん」
私の返事と同時に席を立つ。私はこっそりため息をついた。
「スパゲティー無くなってるって言ったら、出来立てを持ってきてくれるって」
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