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夫は嬉しそうにメロンソーダを飲んだ。
「メロンソーダ、好きなの?」
「いや、あったから。なんで?」
「映画館に行った時によく飲んでたなって」
「そうだったかな」
カニとメロンソーダの鮮やかな色彩に頭がくらくらした。
「あ、思い出した」
「何を?」
「何の映画を観に行ったのかは覚えてないんだけど、映画の前に流れる予告編で巨大なカニが出てきてさ。それを観て、君なんて言ったか覚えてる?」
その巨大なカニの映画なら覚えている。彼が何て言ったのかも。
「「あのカニ、食べられるのかな」」
二人はぷっと吹き出す。
「ああ、このひと良いなぁ。一緒にカニ食べに行きたいなあって思ったんだよね」
夫は少し照れ臭そうに言って、財布から映画の半券を取り出した。
「私が好きな監督の映画だったんだよね」
「映画のことは分からなかったけど」
カニ身のついた手で私の手を握る。
「カニと君がピンチなときは、きっと君を助けるよ」
「う、うん」
そんな日は一生来なくて良い。夫は返事を待たずに嬉々としてスパゲティーを受け取った。
了
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