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通称カニホテルのバイキングの主役はその名の通り、カニだ。私は夫に連れられ、異様な空気の中でうず高く積まれたカニの前に座っている。
「こんな量、食べられるの?」
バリバリと歯で噛みながらカニの身を食べ、次々にカニの殻で新しい山を作っている夫を見た。
「……」
心配するなと目で返事をして、すぐ新しいカニを掴んだ。私はため息をついて、他のテーブルを眺めた。夫同様に各テーブルでも同じようなシーンが展開されていた。
「飲み物もらってくる」
私は席をそっと立ち、バイキングコーナーに向かう。カニ風サラダやカニ入りクリームパスタ、カニ入りプリンなど殆どの料理にカニが入っていた。サラダと紅茶を持って、テーブルに戻ると夫は順調にカニの山を作っていた。
「一生分のカニを食べるみたいね」
「……」
うるさそうにカニの足を私の皿に載せた。
「ーーいただきます」
もうカニなんて見たくなかったが、夫が満足するまで帰れない。仕方なくカニの関節をパキッと折ると、夫が肘を脇腹に擦り付けた。夫の腕は太くて長い。カニ身がたっぷり詰まってそうだとぼんやりと思った。
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