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契り
逢瀬を繰り返すほどに、辰に惹きつけられていくのがわかる。
このまま続ければどうなるのか、もう子供ではない阿佐にはわかってはいた。
日ごと、口づけの時間が延び、深さが増し――とうとう、辰は堪りかねたように阿佐の耳に囁いた。
「もう、辛抱なりません。――あなたは、あなたの心は私のものだと言う。でも、私はあなたの体も欲しい。体も、私のものにしたい」
阿佐は口ではいけないと言いながら、自分の体が辰を迎え入れようとしていることがわかった。
「阿佐様……よいですよね?」
辰が荒い息で阿佐の首へ――はだけた胸元へ舌を這わせる。その性急さはまるで獣のそれのようで、阿佐の欲情をも掻き立てた。
夢中で頷くと、阿佐も辰の体を抱きしめる。
辰の肩の向こうには、相も変わらず森が美しく光り、衣擦れの音を隠すような木の葉の音が響き、まるで二人が結ばれることを祝福しているかのように思えた。
虹色に輝く林檎がたわわに実った木を支えに、辰に背を向ける格好にされる。
荒々しく着物をたくしあげられ――阿佐の体が辰を飲み込んだ。旦那との交わりでは覚えたことのない快楽に恍惚となる。
――この交わりで子をなしたら。
僅かに残った頭の冷静な部分が、そんなことを考える。
けれど、安佐の唇に浮かんだのは押さえきれない笑みだった。
あぁ、辰によく似た見目麗しい子供に育つだろう。
半年励んで妊娠しなかった。多分、旦那は子種がないのだ。
旦那の子として生まれれば、屋敷のものたちも村のものたちも誕生を喜ぶだろう。親に似ない子供などいくらでもいる。
そう考えると、こうして辰と結ばれることが、ひいては村の幸せに繋がるようにも思えてくる。
――だが、そうはならないことを知るのに、時間はかからなかった。
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