神の森

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神の森

 阿佐(あさ)は半年前、二十歳そこそこで隣村の村長(むらおさ)のもとへ嫁いできた。  阿佐の村も田舎ではあったが、その村はさらに山奥で、周囲も山に取り囲まれ、娯楽らしい娯楽は何もなかった。阿佐の村にはぎりぎり届いていた電気も、ここまではまだ届いていない。明かりはまだ蝋燭や行灯に頼っていた。  肝心の旦那への愛があればまだしも、村同士の結びつきのためだけ……加えて、後継ぎをもうけるためだけに行われた結婚で、十五も年上の旦那とは共通の話題もなければ夜のほうも単調で退屈だった。  赤ん坊でもできればまた張り合いもできるかと思ったが、その兆候も見られない。  その上、旦那は嫉妬心は人一倍で、阿佐が村の若い男に奪われはしないかと、自由に外出するのもいい顔をしなかった。  それに逆らおうにも、この村に自分の味方は一人もいない。自然、阿佐は日中暇を持て余して、屋敷の裏に広がる森をぶらぶらと歩くことが増えた。  その日も、阿佐は屋敷の者には黙って、森へと散歩に出た。  森は太陽の光が差し込んで明るく、見上げると木の葉が万華鏡のように輝いている。それを眺めると、塞いでいた気持ちが癒された。
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