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「初めてのカフェに入ったらまずは店長おすすめメニュー頼んじゃうよね」
隣の席の和泉は何の前触れもなく話しかけてきた。いつものことだ。
彼女に目を向けると、もうすぐ昼休憩も終わるというのにまだメロンパンを齧っている。
「僕ならコーヒー頼むけど」
本に栞を挟む。読書は好きだが、世にいう読書家ほどの愛はない。
誰もいなければ読むし、誰かに話しかけられればいつでも閉じる。その程度だ。
「店長がおすすめしてないのに?」
「店長がブレンドコーヒーおすすめしてくるカフェ嫌だろ。それに店長は僕の好みを知ってるわけじゃないしな」
常連ならともかく新客だ。店長が僕の好みのドリンクを把握しているわけがない。てか店長って誰だよ。
「でも店長って誰よりもそのお店のことを考えてる人だよ。その人がおすすめしてくるメニューなんだから信頼できるでしょ。お店の看板商品といっても過言じゃない」
「まあそれはわからんでもない」
「だから私は店長のおすすめをなぞって生きていきたいわけよ」
「まあそれはわからん」
かぷり、と和泉はまた一口メロンパンに齧りつく。そのメロンパンは店長のおすすめだったのだろうか。
訊いてみようかと口を開く前に、彼女が先手を取った。
「二宮くんは本好きだよね」
「ああ、まあ」
「じゃあ枕草子って知ってる?」
「高校生で知らないほうが稀だろ」
「あの人が言ってるんだよ。夏は夜、って」
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