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「旅行は計画を立てるときが一番楽しいって言うけど、あれ絶対嘘だよね。計画立てるのめんどくない?」
「集合時間と場所くらい決めなきゃ会えないだろ」
次の日の昼休憩、僕たちは一緒に夏の夜を風流するための予定を立てていた。
と言っても、何をするのかはよくわからない。和泉が教えてくれないからだ。何度訊いてみても「風流するんだって」の一点張りだった。
「時間は来週の水曜日の夜がいい。でも夜って何時からだろ。暗くなってから?」
「たぶんそうだよな。七時じゃまだ明るいかもだし、八時集合にするか。場所は?」
「晴れた空の下」
「天気の話じゃない」
とりあえず学校集合でいいか、と尋ねると和泉はチョココロネを咥えたままこくりと頷いた。
しかし場所はおざなりなのに日程はやけにこだわるな。できれば金曜日がよかったんだけど。
「とりあえず空が広く見えればいいよ」
「じゃあ学校集合だし、グラウンドとかどう?」
「いいね。でも屋上のほうがロマンチックかな」
「屋上が開放されてる高校なんかフィクションだろ」
たびたび横道に逸れつつも当日の計画を詰めながら「でもどうして」と僕は考えていた。
初めて行くカフェに誘う相手がどうして僕なんだろう。
和泉は友達が少ないわけじゃない。彼女の細かいことを気にしない性格は居心地が良く、周りにはいつも誰かがいた。
僕が近くにいられるのは食べるのが遅い彼女がひとりで席に残る昼休憩だけだ。昼休憩以外では話すことすらあまりない。
「なあ和泉」
「ん、なーに」
ぱちりと二重瞼を大きく開いてこちらを見た。綺麗なものばかりを見て生きてきたかのように、その瞳は光を乗せている。思わず目を逸らした。
「……口にチョコついてる」
「え、うそ!」
視界の端でごしごしと慌てて口元を拭う和泉。僕はそれを笑いながら、さっきの疑問を握り潰した。余計なことは訊かなくていいか、と。
そして、そんな風に思う自分も少し不思議だった。
おかしいな。まるで僕も風流するのを楽しみにしてるみたいだ。
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