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「え、二宮くんいつからいたの?」 「二十分前だ」 「待ち合わせって時間に遅れても早く来すぎてもダメなんだって。つまり私たちは同罪だね」 「遅れたほうが悪いに決まってんだろ」  約束の時間から十分後に現れた和泉は悪びれもせずに「まあまあ」と僕をなだめる。約束の十分前に到着していた僕は何も間違っていないはずなのに、そこまで堂々とされるとなんだか揺らぐ。   「さ、行こっか」  和泉はそれを言い終わるより先に歩き出した。  辺りには僕たち以外誰もいない。「晴れてよかったねえ」「予定通りだな」と話しながら、グラウンドの照明が落とされた暗い道を進んでいく。  僕らが歩くたびにアスファルトが擦れる音が聞こえた。時折(ぬる)い風が吹くが、肌に貼りついた湿気は拭いきれない。 「あれ、まだ門開いてるんだ」 「まだ先生たち残ってるんだな」 「え、うそこんな時間まで働いてるの。こわ」 「これが学校の怪談か」  寒くもないのに身震いしながら半分あたりまで閉められている正門を抜け、並び立つ校舎の間を歩く。音の無い校舎は生気がない。ただひとつ明かりのついている職員室がまるで心臓のようだ。  あまりに静かすぎて地面を踏む音でバレてしまいそうだったので僕たちは足音を忍ばせて進んでいく。   「――ねえ、二宮くん」  校舎の間を抜けると、目の前にグラウンドが広がった。そして同じように淡く暗い空が広がる。 「晴れてよかったね」  前を歩いていた和泉が振り返って微笑む。彼女がどうして曜日と天気にこだわっていたのかようやくわかった。  どこまでも広がる夜空の中央に穴を空けたように、真っ白な満月が浮かんでいた。
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