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僕は隣に目を向ける。
月が見えなくなった。彼女の笑う顔が見えた。
「え、どういうこと」
「そのままだよ。春くらいから二宮くんのこと見ててさ、なんかカッコいいなあって思ってたんだよね」
「マジか」
不意打ちに僕の胸は波打つ。
押し寄せる波はどんどんと高くなっていき、身体全体を揺らした。
やばい。なんだこの展開は。
「うん。で、なんでカッコいいんだろって思って考えてたら気付いたの。いつも昼休憩に一人で本読んでるからだ! って」
「……ん?」
「誰とも群れることなく晴れの日も雨の日も自分の席で読書にいそしむ」
「いやそれ、ぼっちなだけじゃね?」
押し寄せていた波がぴたりと止んだ。そよ風も吹かない。完全に凪だった。
がっかりだ。なんだこの展開は。
僕がため息をつくと、彼女は小さく首を横に振る。
「二宮くんはぼっちじゃないでしょ。みんなと仲悪いわけじゃないし、昼休憩もサッカー誘われてるけど読書したくて断ってるだけじゃん」
「夏にサッカーとか自殺行為だろ」
「春も断ってたけどね。それはぼっちじゃなくて、選んでるって言うんだよ。でも私だったらたぶんサッカー行っちゃうと思うんだ」
和泉はまた笑う。
彼女は月明かりが自分にどんな風に当たっているかわかってるのかもしれない。
そうじゃなきゃ、彼女がこんなに美しく見える説明がつかない。
「すごいよ。みんなが良いって言ってるものじゃなくて、自分が良いと思えるものを選べるのは」
僕は何も言えなかった。それは彼女のストレートな言葉に対する照れかもしれないし、芸術作品を前にして言葉が見つからないときとも似ている。
「だから今日は確かめたかったんだ」
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