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「こんにちは!」  耳も尻尾も消し、その姿を人に変えると、ウタは意気揚々と声をかけた。先ほどは素通りした葵だったが、その声に足を留め驚いたように振り返った。 「え・・・・・・」 「こんにちは。ご参拝ですか」 「・・・・・・いや」  怪訝そうな声をあげそう答えた葵は、どこか冷たい空気を感じる。ウタの中での葵は、柔らかく笑う優しい人なのだが、目の前の姿からは全く正反対みたいだ。 「なにか、気になるものでもありました?」 「・・・・・・いや。なんとなく覚えがある気がしただけだ」 「なにか、思い出しました?」  目を輝かせ、ウタが問う。しかし、葵は眉を寄せ「いや」と首を横に振った。その言葉にしゅんと肩を落とす。 「あの。ここは、小さな寂れた神社ですが、いつでも気軽に立ち寄ってください」 「・・・・・・」  怪訝な顔をする葵。ああ、どうしてだろう。もっと柔らかく優しく笑う顔を何度も何度も想像していたのにーー。  くらりと立ちくらみを感じ体が倒れ込む。ああ、力を使いすぎたのだーー、そう気づいた時には目の前は真っ暗になっていた。
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