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 講義を終え、まっすぐ神社に向かうと、そこにはすでに人が来ていた。 「ウタちゃんいないね」 「うん・・・・・・」  男女の姉弟なのか、キョロキョロと辺りを見渡しながら残念そうに呟くのが聞こえた。よく見ると、弟の方に見覚えがある。いじめられているのだと泣いて神社にやってきた翔という男の子だ。 「あ、お兄ちゃん!」  その翔が葵に気づき声をあげた。葵はためらいながらもこくりと頭を下げる。  ずっと人付き合いから離れてきたせいで、接し方がわからない。 「お兄ちゃん、ウタお兄ちゃんはいないの? 会いにきたのにいないんだ」 「ああ・・・・・・、今、ちょっと会えないんだ。でも、できれば参拝して帰ってやってくれるか」 「うん! 神様にご挨拶するんだよね。俺、いってくる! お姉ちゃんも行こう!」 「あ、待って、翔。ごめんなさい。失礼します」  翔を追いかけながら姉の方も駆け出していく。
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