271人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの頃、・・・・・・俺の家で色々あって、ばあちゃんのこととか・・・・・・辛いことも多かったから、必然的に思い出さないようにしてたんだろうな。そうしてたら、本当に忘れてしまったことも多かったんだろうな」
「葵くんも、寂しい思いをたくさんしたんだよね。ぼく、力になりたかったのに、何もできなかった」
「そんなことねぇよ。・・・・・・じいちゃんのこと、本当に感謝してる。ばあちゃんの時も、喧嘩したまま話もできなくなって後悔してたのに、また同じこと繰り返すところだった。でも、ウタのおかげで、ちゃんと話ができたから」
葵は話しながら悲しげではなく、懐かしむような表情をしている。そのことに少しホッとしたウタは、そっと葵の隣に並ぶ。
「こうして前が向けたのも、ウタのおかげだ」
「そんなことないよ」
「もう少し、人とも関わっていこうと思う」
「葵くんを大切に思ってる人は、きっといるし、これからだって増えていくよ」
「・・・・・・お前にそう言われると、本当にそうかもって思うよ」
ウタの言葉を、葵は素直に受け入れてくれる。本来、葵はこういう人なのだ。心を閉ざす家庭環境のせいで頑なになってしまっていただけ。
でも、素直すぎる葵は、ウタに対しても真っ直ぐで少し気恥ずかしい。
恋人、というのはこういうものなのだろうか。
「ウタ、ありがとな」
そう言って笑った葵は、とても清々しい表情をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!