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 拝殿に向かうと、財布から五円玉を出し賽銭ん箱に投げ入れる。  そして、手を合わせ祈った。 『俺はもう大丈夫です。だから、昔のお願いを訂正してください。ウタから俺の記憶を消してくれていい。ずっと、好きでいてくれなくていいです。ウタを自由にしてください』  自分から、解放されてください。そう心に祈った。  自分はとても幸せ者だ。神様なんかに愛されて。大きな願いを叶えてもらった。  祖父と、ちゃんと最期の別れができたこと。そのおかげで、ずっと心に溜め込んでいた後悔を少し消化することができたこと。  そして、誰にも愛されない。その思いを否定してもらえたこと。  自分は、なんて幸せ者だろう。 「嫌です! そんな願い、聞けませんっ!」  すっきりとした表情で顔を上げると、そこに立っていたのは、泣き顔のウタだった。
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