269人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「え、と。うん。ここ住んでる」
「ここ? お前、神社の子どもなのか?」
その少年は神主の子どもなのかと問いたかったようだが、ウタには理解できずよくわからず頷いた。自分がどこの子どもであるかは大した問題ではなかったから。
「君は? ぼく、ウタ」
「俺は黒尾葵。葵でいいぞ」
「葵。おじいちゃんちにいるの?」
「夏休みの間、父ちゃんに連れられて遊びに来てるんだ。田舎でなんもないから、俺は嫌なんだけど」
本来の家は別の場所にあるのか。ウタは、その日からやってくる葵と神社で他愛のない話をして過ごした。
子どもとは波長が合いやすいのか、人ならざるものを認識してしまうものがいる。葵もその類の人間だろう。多くのものは成長につれ、見えなくなっていくものだが、葵もそうだろうか。いつか、ウタのことが見えなくなってしまうだろうか。そんな不安がよぎるくらいに、ウタにとって葵は特別な存在になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!