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素直に足をすすめたウタの身体を力強く抱きしめる。大きな胸が苦しいが、テンの優しさを身体中で感じられるこの抱擁も、実はウタは嫌いじゃない。
ウタに母はいないが、母がいれば、こんな感じなのだろうか。
子を思う母の願いを幾度も聞いた。無償の愛。我が身より大切に思う心に触れ、その気持ちを、想像することはできるようになった。
「黒尾葵の方を説得して離れさせようと思ったが・・・・・・。やはり、ウタには甘いな」
「テンさま・・・・・・」
「仕方ない。我も腹を括ろう。ウタの力となろう」
「力に、ですか?」
「黒尾葵がその一生を終えた時、それでも尚、ウタと共にいたいと、その気持ちが互いに変わらぬことが証明できれば。我の力で黒尾葵に神としての力を授けよう」
「え・・・・・・」
テンの腕から離れ、顔を上げる。慈愛に満ちた暖かな表情でウタを見る。
「その後は、神としてここで二人でこの神社を守ればよい」
「テンさま・・・・・・!」
「簡単ではないぞ。人の心は移りゆくものでもある。長い年月、互いに思い合っていることを証明し続けるのは、生半可なことではない」
「はい。・・・・・・もし、葵くんが心移りしてしまったら、それをぼくは止めることはできない」
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