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「どうか、お願いします。娘の病気がよくなりますように」  正午前、神社を訪れたのは若い母親だった。やつれた顔で拝殿に手を合わせる。声に出さずとも、拝殿で手を合わせて願った言葉は神であるウタにはよく聞こえる。 「その願い、承ります」  その母親の前に降り立ったウタは、そう言って頭を下げる代わりに目を伏せた。  神に祈ることで、人は少しばかりの心の安息を得る。救済を得たい人間にとって、神への祈りは必然だ。  そして神は、そのすべての願いをその言葉の通り叶えることができるわけではない。  多少の、その者の運命に大きく影響しない程度でしか応えることはできない。すべての人間の願いを、願いのまま叶えてしまうことは、この世を混沌に巻き込むこと、そう神の中での暗黙の了解のようなものだった。  神は、人々の安息のサポートをする。そして、神の力の源は人々の祈りの力によるものだ。
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