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 愛だとか、恋だとか、信じられない。それが、自分の愛されなかった生い立ちのせいなのだとは理解していた。  最初からそうであったわけではなかったはずだ。家族水入らずの記憶は少なからずあった。しかし、次第にその歯車が狂い始めた。  両親の喧嘩が多くなるにつれ、自分に見向きもされなくなり、夏休みの長期休暇になると決まって祖父母の家に預けられるようになった。それはきっと、厄介払いのようなものだったのだろう。  都心にある自宅と違い、田舎の祖父母の家は遊び場もなくてつまらなかった。それでも、葵に優しい祖父母のことは好きだった。  祖母が亡くなり、祖父が葵を引き取り二人で暮らし始めると、家事に慣れない祖父とあたふたしながらの日々が始まった。
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