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 祖父が自分を心から愛してくれていることはわかっていたし、愛情はしっかりと感じていた。それでも、両親に捨てられたと言う事実は葵には大きく、人を信じることや、いろんなことに感動したり楽しんだりという感情を持つことができなくなった。  心を固く閉ざした葵の前に、不思議な青年が、現れるまでは。  神様だと名乗るその青年ーーウタは、いつだってニコニコと笑顔を振りまいて、葵が好きだと真っ直ぐと伝える。葵の前に姿を表すまでも自分を見てきたというその彼の天真爛漫さに、圧倒されていくのがわかった。  それでも最初は、彼の言葉を間に受けてはいなかったし、どうでもよかった。それでも、なぜか足はあの神社の鳥居をくぐっていた。  そして、ウタの自分を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる姿を見ると、何に対しても動くことのなかった心が少しだけ、本当にほんの少しだけ動いた。
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